花王傘下の新ブランド「athletia」、“ジェンダーレスコスメ”に支持が集まる背景
化粧は、もはや女性だけのものではなくなっている。
世界的に男女の境界を越えた「ジェンダーレスコスメ」が増加し、支持を得ている。メイクアップ分野では、米国で2014年に性別を超えたメイクを提案する「Milk Makeup」がスタート。またアーティストのリアーナが2017年に立ち上げた「Fenty Beauty」では、40色のファンデーションを展開。多様性や包括性を尊重する社会的な動きを反映させたものとなっている。起用されるモデルにも多様性が意識され、さまざまな年齢、体型、ジェンダーの人がアイコンとなっている。
また、韓国ではK-POPアイドルがジェンダーレスコスメブームを牽引。アイドルのメイクが男女問わず注目され、世界に影響を及ぼした。
一方、スキンケア分野では、ドクターズコスメ、リッチな成分を配合したもの、クリーンビューティなどがジェンダーレスとの親和性が高い。機能性や成分に共感を得るだけでなく、シンプルなパッケージやPRする世界観も男女問わず購入されるための大きな要素となっている。
男女問わず人気の「香り」
そんな中で、花王グループのエキップ(東京都品川区)は、ブランド「athletia(アスレティア)」を2020年2月にスタートした。ジェンダーレス、エイジレスに使えるコンセプトの背景には、「“人生100年時代”を生きるすべての人を支える製品を作りたい」という前澤洋介社長の思いが込められている。
コロナ禍でのストレスや、家で過ごす時間が増えたことで、アロマやルームスプレーへの注目が高まっている。アスレティアの特徴のひとつは、天然精油を90%以上使用した、誰もが使えることを目指した自然な香りだ。ルームスプレーは男女問わず人気だという。
「アロマグッズを購入する男性をよく見かけたことや、癒されたい思いは男女共通だという意識があった」(前澤社長)。百貨店の特設売り場でも、香りにひかれて立ち寄る男性客が見られた。
また、一般的に化粧品は女性の嗜好に合わせたフローラルで華やかな香りが多く、男性にはなじみにくい様子もあった。自然な香りはその抵抗を和らげる効果もある。
スキンケアのステップが少ないことも、生活への取り入れやすさを後押しする。年齢や性別で肌質は違うように思えるが、基本的な肌の構造に違いはない。また近年では男性もスキンケア習慣が根付いてきたため、より違いがなくなりつつあるという。基本の保湿ケアに加えて、美容液などでニーズの違いに応えるようにしている。
そして、すべての商品に通底するのが、ブランドの根底にある“クリーンビューティ”の考え方に基づく「環境への配慮」だ。自然原料やリサイクルガラスを使った容器などにこだわっている。「100年時代に向けた商品であれば、生きる環境への配慮は不可欠だ。環境によい、自然なものは、結果的にすべての人にとって良い商品になる」(前澤社長)。
開拓の余地あり
現在の客層は20~50代と幅広いが、男性はおおよそ15~20%。男性に人気の商品には「クーリングボディジェル」がある。日焼けや運動後に体に塗布しクールダウンさせるものだ。
富士経済によると、2019年のメンズフェイスケア市場は前年比5.3%増の257億円。洗顔料に加え、化粧水や乳液など整肌料の使用率が上昇し、市場は拡大しているものの、まだ女性に比べると少なく、開拓の余地がある。
来年には海外展開も予定している。コロナ禍によって、世界的にストレス社会になっている。「表面的な美しさ」だけでなく、「心地よい」ことが強く求められるようになってきた。品質の高さに加え、実現できる世界観を訴求していきたいという。
+αの価値
「男女で美しさや清潔に対する価値観の差がなくなりつつある」と前澤社長は見る。ジェンダーレスコスメはまだ数も少なく、今後も伸びが期待される。
ただし、日本の化粧品は基本的なレベルが高い。その中で戦っていくには+αの価値や魅力が必要だと、「BeautyTech.jp」編集長の矢野貴久子氏は話す。「男女ともに香水をつける習慣があるため、『香り』をトリガーにすることなどはその一例」(矢野編集長)。また、メイクアップでは俳優や男性アイドルを広告に起用する例が増えている。性別問わず手に取りやすく選びやすい店舗展開やパッケージも重要だ。「特に化粧品になじみのない日本人男性にとっては『買いやすさ』が重要なポイントになっている」(矢野編集長)。
一方、若い世代はYouTuberやインフルエンサーによって、男女問わず化粧品の情報にアクセスしており、境界を意識することなく商品を選ぶ人も増えている。彼らがメイン消費者になる頃には、より一側ジェンダーレス化が進む可能性が高い。