「ジェンダーレス=無個性」の罠!新規顧客を開拓するデザインとは?

ひろがるジェンダーレス #6 デザインプロセス

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ジェンダーレスな商品が注目されている。商品開発や販売戦略を考える際、「ジェンダー」の要素を考えるとはどういうことなのか、またどんな可能性があるのか。(取材・昆梓紗)

デザインの影響

ジェンダーとデザインの関係の「今」を提示しているのが、ドイツの「iphiGenia Gender Design Award」だ。ジェンダーに関する偏見や無知に対し、デザインがどう関われるかをテーマに2017年に設立された。応募対象はグラフィック、プロダクト、サービスなど形を問わない。
 2017年の第1回には、広告に表現されている女性のイメージが社会の画一的な女性像を作り出しているとして、広告制作の場でよく利用されている写真のライセンス提供サービス(ストック写真)をハックする「Image Hack」という活動が受賞した。

 これは、既存のストック写真の中で、たくましい女性を描いた写真にあえて「美しい」というタグを自動的につけて、ネット上で検索されやすくするというユニークな切り口のアイデアである。広告やビジュアルデザインは無意識のうちに人々の価値観に影響を与えている。そこを変えていくことでジェンダーに対する意識改革につなげる意図がある。

また2018年には日本でも店舗展開をしている化粧品ブランド「Aesop」が受賞した。ジェンダーレスな商品だけでなく、店舗デザインや接客なども評価された。デザインとして普遍的に美しい、ということがジェンダーを超えていることにもつながっている。

イソップ 京都店

このアワードは、女性に対する偏見を変えるという方向性を打ち出している。九州大学芸術工学部の池田美奈子准教授は「個人的には、女性に対する画一的な見方や差別に対抗する闘争の時代は過ぎ、これからは多様なジェンダーがともに新たな価値をつくり出す共創の時代に入ると感じているが、世界的ムーブメントとなった『#MeToo』などを見ていると、まだ女性に対する偏見の問題は大きい」と話す。

男女の視点の差

また、デザインプロセスにジェンダーフリーの考えや、ジェンダーによる意識の差をうまく取り入れる研究もある。ケルン応用科学大学のウタ・ブランデス教授が行ったビジネスホテルのデザインに関する研究もその1つだ(※)。現代では女性の出張者が増えているにもかかわらず、ビジネスホテルが男性向けのデザインになっていると考え、女性の視点からホテルをくまなく調査した。
 男女にビジネスホテルに求めることを挙げてもらうと、男性は「寝やすいベッド」「つながりやすいWi-Fi」「清潔なシャワー」など3つほどだったのに対し、女性は「スーツケースを置きやすいように低い高さの棚を」「冷蔵庫には乾き物だけでなく新鮮なフルーツを」「女性1人でもゆっくりできるバーがほしい」など、あらゆる場面での要望が100ほど挙がったという。

バーで女性1人では居心地が悪いことがあるという
 この違いから分かるのは、ホテルのサービスを見る目に男女で解像度の差があること。さらに、女性の出した多くの要望は、男性にとっても嬉しいものだった。女性の視点をビジネスホテルのデザインに取り入れれば、女性客を取り込めるだけでなく、男性客もより満足させられるサービスになる。
 この研究では女性の視点を取り入れる提案がなされたが、反対に男性の視点が新たな価値を生む場合もあるだろう。表立って「ジェンダーレス」と言うだけでなく、デザインが完成する前段階で今までなかったような男女の視点をプロセスに取り入れることで、新たな発見や、より多くの人を満足させられるデザインの可能性が見出せる。

自然に実現する

ただし、「社会的正義やジェンダー平等ばかりを主張すると偏った不自然なデザインになる」と池田准教授は指摘する。さまざまなジェンダーの人の嗜好や考えを軽やかに取り入れて自然に良いものを作る。ビジネス的に考えても、自然に良いものが広まっていく方がプラスに働く。
 ジェンダーレスやジェンダーニュートラルのデザインは、単に性別を関係なくすること、個性を抑えることではない。誰にとっても心地よいデザインのためには、生活のなかにある違和感に気づき、その本質を解釈することが必要だ。

ジェンダーの視点を意識的にデザインプロセスに取り入れることで、先に挙げたビジネスホテルの例のように、気づきの接点が多くなり、よりよいデザインを発想できる。
 例えば、個性を廃さず、誰にでもフィットする優れたデザインに、イッセイミヤケのブランド「PLEATS PLEASE」がある。「体型、年齢、性別を問わずだれもが個性的に着こなせ、ファッション性も高く、かつサスティナブル」(池田准教授)。

また、形、サイズなどのバリエーションは必要だが、「男女」で分ける必要のない場合も、じつは多いのではないだろうか。
 例えば、メガネは男女別の商品展開をしている店が多かったが、近年は男女を分けない傾向も強い。「ファッションをはじめ、消費者側は男女を気にせず商品を選ぶ傾向が出てきている。ただ売り場が変わっていないと感じる」(池田准教授)。
 少しずつジェンダーを超えた売り場づくりの動きは進みつつある。マルイでは2019年に「ジェンダーフリーハウス」という期間限定スペースを設置、ジェンダーフリーなファッションや雑貨、化粧品などを揃え、イベントを行った。ただ、こうした取り組みをあえて行うということは、逆に“ジェンダーフリー”がまだ定着していないからだとも言える。

商品そのものを変えるだけでなく、既存商品の陳列方法や分類など「出し方」を変えるだけでも選択肢を広げることにつなげられる。作り手だけでなく、消費者に届けるまでのプロセス全体にもジェンダー視点が入ることで、新たな発見や新規顧客を開拓できる可能性がある。

(※)「Women in Hotels」

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COMMENT

昆梓紗
デジタルメディア局
記者・編集者

「ジェンダーフリー」「ジェンダーレス」な商品とは何なのかを、この取材を通してずっと考えてきました。例えば、携帯電話はかつて、ゴツいもの=男性、ピンクでキラキラ、かわいい形=女性、のようなデザインの商品がありました。しかし今や、シンプルなデザインで男女問わず自然と受け入れられています。いま「ジェンダーレス」として新たにデザインされ、受け入れられはじめているものは、おそらくかつては「ジェンダー」をかなり感じるデザインや売り方が展開されてきたもの。今後それすらも感じられなくなったとき、本当のジェンダーレスが達成されたといえるのではないでしょうか。

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