安価で高品質な新型ロケット「H3」の完成に貢献した日本のモノづくりの力
ロケットの心臓部分であり、花形の装置がエンジンだ。大型基幹ロケット「H3」のエンジンは宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した。だが、H3にはほかにも打ち上げに重要な装置や数万点に上る部品が搭載されている。技術開発には数百社の企業が関わっており、日本の新たな安価で高品質なロケットの完成に貢献した。モノづくりの力で宇宙に衛星を運ぶ。
H3の開発には従来機「H2A」の開発・製造から関わっている企業の参画が多い。例えば、H3とH2Aの1段目に搭載した補助ロケットを開発したのがIHIエアロスペース(群馬県富岡市)だ。両機に搭載した補助ロケットの大きさはほぼ変わらないが、H3の方が推進薬を約1トン増やせたため推力を向上できた。
H3に搭載した補助ロケットは、2024年度中に打ち上げ予定の小型の固体燃料ロケット「イプシロンS」の1段目にも採用されている。政府の宇宙政策委員を務める東京理科大学の木村真一教授は「異なるロケットと技術を共通化することで開発費が抑えられる」という。国際競争力の向上を狙った仕掛けだ。
日本航空電子工業は、2段エンジンに搭載して積み荷を予定の軌道まで導く「慣性センサーユニット」を作製。ロケット発射時の姿勢や方位、速度や加速度信号を測定して姿勢を制御する。
H2Aでも同様の装置を搭載したが、H3には姿勢制御に必要な技術であるベクトル軸の組み合わせを工夫して装置トラブルがあっても即時に対応できる仕組みを導入した。さらに民生部品を採用し、環境試験も車載部品と同等とした。日本航空電子工業の森元誠一エグゼクティブエキスパートは「H2Aで搭載した同装置は数億円かかったが、H3では数千万円まで価格を抑えられた」と振り返る。
中小企業も多数貢献している。オーダーメードでのバネ開発を得意とする東海バネ工業(大阪市西区)は、ロケットの1段目と2段目の分離に使われる巨大なバネを開発。担当者は「人が押しても全然縮まないくらい強い。これが4本使われている」と説明。ほかにも、荷重や衝撃により特性が変化する皿バネがメーンエンジンに使われている。
宇宙開発には民間の力が必要だが、なかなか利益に直結する産業になっていないのが現状だ。ロケットの打ち上げ回数が少なければなおさら企業の経営に影響するが、H3に関わる企業はこうした現状も理解した上で10年以上の開発に貢献した。産業界を含むオールジャパンで作ったH3が今後20年近い日本の宇宙輸送を支える。(木曜日に掲載)
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