推力1.4倍…大型基幹ロケット「H3」打ち上げのカギ、「LE-9エンジン」の全容
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した大型基幹ロケット「H3」4号機の打ち上げが4日、成功した。ごう音とともに龍が天に上るように大空へ飛び、衛星を宇宙に運んだ。H3に搭載された新型のメーンエンジン「LE―9」は打ち上げのカギとなる技術で、従来の約1・4倍の推力を発生する。日本の持つ技術を集約し、簡素で信頼性のあるシステムを採用したことでロケットの柔軟性や低価格の実現に貢献している。
H3は従来機「H2A」より安価な打ち上げを可能にするため、さまざまな部品や装置を見直した。その中でロケットの1段目に搭載するメーンエンジンも設計から検討し、新型のLE―9の開発に乗り出した。燃料に液体水素、酸化剤に液体酸素を使い、これらが反応して発生する高温高圧のガスの噴き出す力を利用して推進力とするエンジンだ。
LE―9には「エキスパンダーブリードサイクル」と呼ばれるシステムを採用。液体水素を燃焼室やノズルの冷却に使うとともに、ガス化して温度を上げて駆動源のターボポンプを動かす仕組みだ。ターボポンプの効率が向上しやすく異常な燃焼になりにくい構造であるため信頼性が高まり、H2Aで使うエンジン「LE―7」より部品数を約20%減らして製造できるため低コスト化にもつながる。
エキスパンダーブリードサイクルシステムは、1990年代に使っていた大型ロケット「H2」の2段エンジンに使われていた。だが燃焼が早期に終了する事象が発生し、その後のH2Aでは採用されなかった。この時に培った技術を生かして作られたのがLE―9だが開発は難航した。
2020年に実施した燃焼試験では、不具合が見つかった。JAXAの岡田匡史理事は「液体水素を送り込むターボポンプのタービンにある動翼の共振による疲労と、燃焼室内壁に小さな穿孔が複数あった」と説明。H3は20年に打ち上げる予定だったが、こうした課題を解決するべくタービンの再設計などを行うため21年に延期。詳細な検証のため再延期した後、23年に初飛行を実施した。
H3試験機1号機は打ち上げに失敗したが、LE―9は正常に稼働したことを確認。「2号機以降も順調に活躍している」(岡田理事)という。1段エンジンでエキスパンダーブリードサイクルシステムを実証したのはLE―9が世界で初めてであり、H3の主要技術と言える。
LE―9エンジンは段階的に開発を進めており、現在は恒久的に使う「タイプ2」を開発中だ。タイプ2では3次元(3D)造形を活用しており、従来は数百個の部品から作られた装置が一括で作れることからより低コストでの製造が可能になる。JAXAの有田誠H3プロジェクトマネージャは「動翼の共振による疲労などの懸念があることから、急いで実証せずに慎重に試験している。開発は順調」と強調した。最先端技術を盛り込んだ新たなLE―9での飛行が待ち遠しい。