「H3」に見る日本のロケットが選ばれる理由
使いやすさで海外客獲得
世界には米スペースXをはじめとした宇宙輸送事業者が数多く存在する中で、日本のロケットが選ばれるのはなぜだろうか。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は「打ち上げ成功率の高さや遅延なく予定時間通りに打ち上げる正確性、振動が少なく衛星への負担が少ない」と強調する。ただ日本のロケットがより選ばれるにはユーザーが使いやすいカタチを実現することが重要だ。
JAXAと三菱重工業が開発した新型の大型基幹ロケット「H3」は、ユーザーが搭載したい衛星によってロケットをカスタマイズできる特徴がある。ロケットに載せる衛星の重さと個数によってメーンエンジンと補助ロケットの数や衛星を搭載する先端部分を覆うフェアリングの大きさをユーザーが選べる。これまで打ち上げたH3はメーンエンジン2基と補助ロケット2基、短いタイプのフェアリングという組み合わせで1トン以上の大型衛星1機を打ち上げるのに適している。
より重量がある衛星の場合は、ロケット本体の横にある補助ロケットの個数を4基にすることで推力を増すことで打ち上げできる。またH3のフェアリングには大型衛星2基を搭載できる長いタイプと、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ新型の補給船「HTV―X」専用のワイドタイプがある。JAXAの有田誠H3プロジェクトマネージャは「2025年度に打ち上げ予定のHTV―Xでは、H3で初となるメーンエンジン2基と補助ロケット4本からなるカタチで打ち上げる」と説明。20年を最後に9機打ち上げたISS補給船「こうのとり」に続く後継機HTV―Xの運用にも貢献する。将来的にHTV―Xは月周回有人拠点「ゲートウェー」への物資供給にも使われる見込みで、H3は米主導の「アルテミス計画」にも貢献する。
H3は小型衛星の輸送にも適したカタチがある。補助ロケットなしでメーンエンジン3基のみからなる「3―0形態」で、日本の大型基幹ロケットでは初の形態となる。軽量の衛星に限られるが、今後メーンエンジンが従来よりも改良されたタイプを使うことで従来機「H2A」の打ち上げ費用の半額となる約50億円での輸送が可能になる。同形態はまだ実証しておらず、25年度にも初回の打ち上げを目指している。
3―0形態の打ち上げにはメーンエンジンの推進力が高くなるまで4本の突支棒で発射台にロケットを拘束し、推進力が100%になった段階で解放する「ホールドダウンシステム」を採用。24年度中にも種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)の発射場で同システムが正常に稼働するかを調べる試験を実施する予定だ。「3―0形態の実現に向けてしっかりと仕上げたい」(有田プロマネ)と意気込む。H3は安心・安全だけでなく、さまざまな衛星の打ち上げに対応できるようにすることで国内だけでなく海外からの顧客獲得も狙う。