H3ロケットに搭載、「LE-5B-3エンジン」に詰まっている技術
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した大型基幹ロケット「H3」は2段式ロケットと呼ばれる仕組みで、1段目の燃焼が終わった後に切り離されて2段目が着火してより遠くに衛星などを運べる。2段目に搭載されているエンジン「LE―5B―3」は、従来機「H2A」で使われてきた2段エンジンを基に開発された。静止軌道への打ち上げ能力が向上し、長時間稼働できる利点を生かした宇宙輸送が実現できる。
H3の2段エンジンは、1段エンジン「LE―9」と同じエキスパンダーブリードサイクルと呼ばれる燃焼室からの熱でターボポンプを動かす仕組みを採用している。エキスパンダーブリードサイクルはH2Aや1990年代に使われたロケット「H2」の2段エンジンにも使われており、20年以上かけて徐々に改良された技術がLE―5B―3に詰まっている。
例えば、H2A29号機で高度化に向けて実証した衛星への負荷を最小限にして地球からの高度3万6000キロメートルの静止軌道へ投入できる「ロングコースト技術」は、LE―5B―3でも適応できる見込みだ。ただ新型ロケットですぐに使うのではなく、その前段階としてH3ロケット4号機の打ち上げで技術実証に向けたデータ取得を行った。JAXAの有田誠H3プロジェクトマネージャは「ロングコースト技術を確立できれば衛星を長寿命化できる。JAXAの技術試験衛星『ETS―9』で実証する予定だ」という。
H3の2段エンジンはH2時代からの地道な改良を重ねて作られたが、1段エンジンのLE―9は試行錯誤の末に作られたこともありエンジンの中でも花形だ。実は、開発当初はさまざまな案が検討されており、2段エンジンも推力を大幅に向上したエンジン「LE―11」を開発する構想があった。だがLE―9とLE―11の両方を開発するとなるとリスクが高まることから、検討段階でお蔵入りしてしまったという。
LE―9の開発が順調に進み、H3の打ち上げが安定化してきた今、2段エンジンの改良に向けて検討を進めている。より燃料を多く搭載してコストパフォーマンス良く運用できるエンジンを目指し、新型にするかも含めて若手からベテランまで集まって、どのようなエンジンが良いか案を出し合っているという。有田プロジェクトマネージャは「H3のどこかのタイミングで改良した2段エンジンを実証し、将来的に次世代機のエンジンとして使いたい」と意気込む。幻のLE―11が案として上がるかは分からないが、H3の次のロケット開発に向けた技術実証の場にもなっている。
JAXAの岡田匡史理事は「ロケット開発は(20年に一度の)式年遷宮のように新たな技術に着手しては人材が途切れて技術が進歩しない。少しずつ新たな技術を入れ込まなければいけない」と強調する。次世代機につなぐためにも、エンジン開発などを通じて人材育成や技術開発を強化することが重要だ。(木曜日に掲載)