開発の潮流「ロケットの大型化」が進む背景
宇宙開発の加速に伴い、できるだけ重いものを遠くにコストパフォーマンス良く運ぶための技術開発が各国で加速している。中でも燃料を多く搭載できる大型ロケットの開発は潮流の一つとなっている。日本最大の大型基幹ロケット「H3」は将来的に月への物資輸送も見込んでおり、現在も高度化を進めている。国際協力の観点でも重要なH3は、今後の日本の宇宙開発を推し進めるのになくてはならない技術といえるだろう。
H3は最大で全長63メートルというサッカーコートの横幅くらいの大きさがある。輸送能力は地球からの高度500キロメートル付近への打ち上げは4000キログラム以上、高度3万6000キロメートルの静止軌道へは長時間飛行技術を使って6500キログラム以上の宇宙機を軌道に投入できる。従来機「H2A」に比べて全長は10メートルほど長くなり燃料を多く搭載できるため打ち上げ能力が向上し、大きな衛星や複数の宇宙機を運べるようになった。
また、これまでは国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送にはH2Aとは別の輸送能力が高い専用ロケット「H2B」で運んでいたが、今後はH3だけですべてまかなえるようになった。将来的には月への物資輸送にも使われる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は「H3は輸送ビジネスの競争力強化だけでなく、国際協力の顔にもなっている」と強調した。
海外では、米国を中心に宇宙輸送ビジネスは加速しており、米スペースXではISSへの有人飛行も担っているロケット「ファルコン9」をはじめとしたロケットの打ち上げを年に200回以上行っている。最近では全長120メートルほどの大型宇宙船「スターシップ」の実証実験が行われ、月への有人輸送を目指している。スペースXのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は「2026年には火星に向けてスターシップを打ち上げる」と意気込む。
欧州では、欧州宇宙企業のアリアンスペースは大型ロケット「アリアン6」の打ち上げに成功。従来機「アリアン5」よりも大型で全長56メートル。これまでより輸送能力も高まり、すでに30基の宇宙機の輸送を受注しているという。アリアンスペースのステファン・イズラエルCEOは「アリアン5の打ち上げ回数は年5―6回だった。アリアン6では、27年にも前機の約2倍となる年10回の打ち上げ体制を実現する」と説明。今後は、欧州だけでなく日本を含め各国へ輸送の幅を広げる。
ロケットの大型化が進む背景には、輸送能力の向上だけでないとの主張もある。エンジン開発が専門である大阪産業大学の田原弘一教授は「大きなロケットを作ることは、その国の宇宙開発の能力の高さを意味することにもなる。キープレーヤーであることを主張するためにも、大型化が求められている」という。H3は大きいだけでなく、日本の先端技術が詰まっている。日本の宇宙開発の技術力の高さを示す顔にもなると期待される。(木曜日に掲載)