打ち上げ失敗乗り越えた「H3ロケット」徹底解剖、開発の今とこれから
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した新型の大型基幹ロケット「H3」の運用が本格化した。開発開始から約10年が経過する中で安心・安全で従来よりも安価なロケットを目指し、運用しながら開発も進めて技術を進化させている。カギとなる技術や打ち上げ延期・失敗を乗り越えて得られた今のカタチ、H3の目指すところなどを取り上げる。
安心・安全、低コスト目指す
H3は従来機「H2A」の後継機である使い捨て型の液体燃料ロケットで、2014年から開発が始まった。H2Aよりも打ち上げ輸送費の削減や年間打ち上げ回数の増加などをはじめ、日本の宇宙輸送技術の国際化や宇宙開発の促進を目指している。
H3の特徴の一つに宇宙に運ぶ衛星によってロケットの部品をカスタマイズできる仕様がある。搭載する衛星の重さでメーンエンジンと補助ロケットの個数を変えられ、衛星の大きさや個数によって先端部分のフェアリングの大きさを選べる。小さな衛星であれば、25年度に打ち上げ予定の補助ロケットがないメーンエンジン3基だけの「3―0形態」での輸送が可能。H2Aの打ち上げ輸送費である100億円の半額となる50億円で打ち上げできる見込みだ。
打ち上げ費用に関しては搭載する衛星によって変わってくるが、H2Aよりも低コストで打ち上げできる。JAXAの有田誠H3プロジェクトマネージャは「安価でユーザーが使いやすいスマートなロケットとなるよう設計を見直した」と強調する。具体的には、高価な宇宙用部品を使わずに部品の9割を民生の車載部品でまかない、3次元(3D)プリンターを活用した部品作製などを行ってコストダウンを図った。
H3は年間6機の打ち上げを目指しており、24年度は4機を打ち上げる予定。H2Aの最終となる50号機や小型の固体燃料ロケット「イプシロンS」初号機などの打ち上げも重なり、今年度は政府系ロケットだけでも8機が日本から打ち上がる計画だ。JAXAの佐藤寿晃理事は「日本で1年間で8機打ち上げが実施されるのは24年度が初めて」と期待する。
一方で、世界では米スペースXを中心にほぼ毎日と言ってよいほど各地のどこかでロケットが打ち上がっているのが現状だ。これに対して、H3の開発当初からプロジェクトマネージャを務めたJAXAの岡田匡史理事は「日本の打ち上げ環境を最大限に生かし、その中で最良の回数を確実に打ち上げることが重要」と指摘する。安心・安全で低コストな打ち上げを可能にするH3の品質を守れるサービスを顧客に提供することが、日本の宇宙輸送で重要な点といえるだろう。
H2Aは24年度で引退し、25年からはH3の時代に本格的に突入する。ただH3は現在も技術開発を進めており、衛星を輸送する時に3―0形態の打ち上げや静止軌道への円滑な衛星投入のための技術実証が行われることもある。岡田理事は「H3を特別な乗り物にしたくない。誰でも使いやすいロケットにしたい」と真剣なまなざし。そのためにも、H3は日々進化し続けている。