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日本は40年前からほぼ変わらず…設計とCAEの関係性の変遷

おすすめ本の抜粋「バーチャル・エンジニアリング Part4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”」 #4

設計とCAEの関係がいかにして今に至るかを明確にしておくことは、CAEを設計に活用するための大前提である。また、変遷の先には設計のためのCAEのあるべき姿がある。ここからは、CAEの変遷と現在の立ち位置を明確にする(図)。

CAEが一般的になるまでは、設計者はソロバンと計算尺、そして実験で、モノづくりを行ってきた。時が流れ、筆者が解析に関する仕事を始めた約40年前は、設計とCAEがまったく別の仕事だった。これを「第1期」とする。設計とCAEが別の仕事であるということは、必要となるスキルが異なるということである。よって、非常に簡単な解析でも外注することになり、解析業務のみを生業(なりわい)とする受託解析業が現れた。CAEは計算技術であり、設計技術とは別のものと認識されていた。

そして「第2期」へと移行する。3次元CADが登場し、その機能の一部としてCAEが提供されるようになった。3次元CADモデルを利用して解析モデルの作成が容易となったからだ。3次元CADの大きな特徴の一つとして、解析への展開がクローズアップされるほどであった。設計者がCADの一部としてCAEを使い始めた。CADに統合されたCAEは機能が限定されるため、その機能を超えた設計の検証のために解析が必用になると、高機能ハイエンドなCAEソフトウェアが必要となり、それを扱える数値解析に精通した技術者が必要となる。解析専任者だ。設計者は、設計の検証のために自ら解くことのできない難易度の高い解析が必要となると、解析専任者に依頼する。これが設計者と解析専任者の関係を表す図式だ。日本の多くの企業は今もなお、この形態のままで停滞している。CAEはアドホック的(限定的)に使われるのみで、設計に統合されているとは言えない。

「第3期」が設計とCAEの関係の〝あるべき姿〞である。CAEが設計の一部となることである。今や3DCADは広く普及しており、3DCADが設計の必須ツールとなっている。製造業にとって3DCADは、キャズムを越えた日常的な設計ツールとなっている。CAEがCADと同じ状況にならなければ、CAEが利活用されているとは言えない。設計の検証のためのアドホック的なCAEの利用から、設計の溶け込んだCAEの活用に舵を切らなければならない。

第2期と第3期の間には、大きな障壁がある。ツールはこの壁を越えるべく進化している。その技術の進化に合わせて「使い方」も変化するべきである。それにも関わらず、特に日本においては、CAEの使い方が40年前とほとんど変わっていない。これが第2-3期間の障壁の原因である。CAEのツールの進化に合わせて使い方を変えなければならない。この壁を越えられなければCAEキャズムを越えることはできない。

CAEは設計者が使ってこそ威力を発揮

CAEの使い方が変わるということは、設計者のCAEスキルと解析専任者のCAEスキルを再定義しなければならない、ということである。そのための教育も再構築する必要がある。
 CAEは設計者が使ってこそ本当の威力を発揮する。そればかりでなく、CAEの投資効果にも大きな影響を及ぼす。1000万円で導入したソフトウェアを5人の解析専任者で使うと、1人当たり200万円となるが、50人の設計者で使うと1人当たり20万円となる。ソフトウェアの使用ライセンスが不足する事態もあるが、CAEのカプセル化などによって、それを乗り越える方法もある。ソフトウェアの使用者が増えれば増えるほど、使用者1人当たりの負担金額は低くなるのだ。さらにソフトウェアの稼働率も自動的に上昇し、それらの相乗効果でソフトウェアのコストパフォーマンスは高くなる。

CAEの普及を解析専任者に丸投げして、導入効果を言及する経営層は多いが、CAEの普及を解析専任者だけに任せるのは大きな間違いである。解析専任者は計算力学やCAEソフトウェアに詳しい専門家である。その専門家を補佐しながら、普及のための仕組みを作ることが必要だ。CAEは今や単なるツールではなく、企業戦略の一つとして認識されるべき存在であり、普及を根付かせることができるのは経営層のみだ。CAE普及の壁を作っているのは、他ならぬ経営層なのかもしれない。
(「バーチャル・エンジニアリング Part4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”」p.121-p.124より一部編集して抜粋)

<販売サイト>
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<書籍紹介>
書名:バーチャル・エンジニアリング Part4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”
著者名:内田孝尚・栗崎彰
判型:四六判
総頁数:228頁
税込み価格:1,980円

<目次(一部抜粋)>
序章 ほぼ完了した設計変革
第一部 モノづくりビジネスのコアとして動き出したCAE
第一章 シミュレーション活用に関して日本で知られていないこと
第二章 問われる設計の役割
第三章 バーチャルモデルが中心となるビジネス基盤構築バーチャルモデルがビジネスに
第四章 CAE/CAD/CAM連携の大きなポテンシャル
第五章 バーチャルモデル環境の成立に必要なこと
第二部 設計のためのCAEの現状とこれからの施策
第六章 設計のためのCAEの現状
第七章 CAEの位置付けと状況の変化を捉える
第八章 CAEの現場をアップデートせよ
第九章 CAEの最大活用、データドリブン型のCAEに向けて

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日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”
日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”
製造業において取引の中心であったリアル商品の代わりとして、バーチャルモデルが取引の対象となり、普及している。そのバーチャルモデルの機能パフォーマンスは、原理原則の理論に従ったCAE(コンピューター利用解析)を用いてデジタル表現されている。このバーチャル商品が、世界ではビジネスのコアになりつつある。
 日本では3D設計の普及が遅れており、バーチャル商品の流通とビジネス展開も歩みは遅い。この危機的な実態を鳥瞰(ちょうかん)し、日本の進むべき方向を解説した書籍『バーチャル・エンジニアリングPart4 日本のモノづくりに欠落している〝企業戦略としてのCAE〞」より一部抜粋し、掲載する。

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