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設計者がCAEを積極的に使わない3つの理由

おすすめ本の抜粋「バーチャル・エンジニアリング Part4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”」 #5

CAEを導入する側と、その利用を促される側(主に設計者)の意識の差は大きい。組織の上層部が鳴り物入りでCAEを導入しても、設計者はその恩恵を感じるどころか煩わしい業務が増えた程度にしか思っていない。設計者にCAEの使用をゴリ押ししたとしても、設計者にとっては「やらされ感満載」の行為となり、CAE使用の圧力に比例して、設計者のやらされ感も大きくなる。そのような状況では、設計者がCAEの恩恵を真摯に理解し、設計に取り入れていくことなどできない。CAEに対して必要のない被害者意識を持つことになりかねない。
 設計者は、なぜCAEを積極的に使わないのか。筆者はCAEを使うための材料力学と有限要素法の座学セミナーを行っており、受講者は2000人を超える。受講者のほとんどは設計者だ。彼らにCAEを積極的に使わない理由を聞いている。その理由を明確にし、対策をとることが、設計者がCAEを活用する第一歩となる。

○理由その1:手間と時間がかかる
 CAEは、解析のためのモデルを作成し、荷重・拘束条件を設定し、解析を実施するという設計とは関係のない「作業」が大半を占める。設計の是非を検証するためとは言え、設計の本質とは何ら関係のない作業に手間と時間をとられることになる。さらに解析結果のレビューの場などで、メッシュサイズなどの解析条件に対する提案や指示があると、一連の作業を繰り返すことになる。この手間と時間が、本質的な設計のための時間を圧縮してしまう。
 設計者は、設計の検証は行いたいが、それにはそれ相当の手間と時間が必要となる、というジレンマに陥る。CAEの検証の実力と設計時間のどちらを取るかはトレードオフの関係だ。多くの場合、設計の検証は後回し、かつ実験で行うということになる。

○理由その2:解読不能のエラーメッセージやワーニングが出る
 まず設計者が直面するのは自動メッシュ分割のエラーだ。設計者が作成する3Dモデルは詳細に作り込まれている。複雑なフィレットの重なりが微小なエッジや面を生み出し、それが自動メッシュ分割の妨げとなる。解析サイドからの回避方法としては、メッシュサイズを変更することくらいである。多くの場合、3Dモデルの修正が必要となる。
 設計モデルとしては完成している3Dモデルを変更することは、設計者にとって抵抗がある。さらに自動メッシュ分割が成功したとしても解析で頓挫することがある。単純な解析でも少し解析モデルを変更しただけで、解析ソフトウェアからエラーメッセージやワーニング(警告)が出ることがある。入力するデータがまったく同じでも、ソフトウェアのバージョンアップによってエラーが発生する場合がある。エラーやワーニングのメッセージは、数値解析に関わることがほとんどで、設計者には理解できない。

○理由その3:設計用の3Dモデルをそのまま解析モデルに転用できない
 設計に3DCADを使う場合、その完成度と詳細度は高い。重量や重心位置を正確に知ることが3Dモデルの重要な役割の一つであることがその理由である。設計用の3Dモデルがそのまま解析モデルに適しているとは限らない。例えば、板金加工もののように薄板で構成された構造物については、有限要素法で使われる要素の一つである板要素でモデル化した方が、精度も高くなる可能性があり、さらに節点数が少なくなり、計算時間が短くて済む。板要素は板の中立面に配置しなければならない。3Dモデルの薄板は、中立位置に面を持っていない。板要素のために中立面を抽出したり、板組の接合部で細工したりすることは、かなりの時間を要する。解析に最適なモデルを作成しようとすると、そのための3Dモデルが必要となる。

以上のような理由から、設計者はCAEを敬遠する傾向にある。CAEの文化を根付かせるためには、計画的な時間とプロセスが必要となる。それを無視すると設計者にとっては〝やらされ感〞のCAEとなってしまう。この考えが核になって、CAEは設計の役に立たない、とか、CAEがなくても設計できる、という思考になってしまう。
 企業によっては設計の妥当性を検証する一つとして、CAEを義務付けているところがある。このような企業は、設計プロセスにCAEが組み込まれているため、中途入社を含む新入社員は、設計行為の一部として定型業務としてCAEを行う。CAEを設計に活用するためには、CAEを設計プロセスに組み込むことがいかに重要であるかがわかる事例である。
 CAEの導入にあたって、計画性がないと、設計にとってのCAEの本当の価値が認められない。そして設計者にとってのCAEは、時間と手間がかかる、設計とは本質的に関係のない作業、というレッテルが貼られてしまう。
 無論、設計にCAEを活用している企業はある。CAEの恩恵を十分に感じている設計者もいる。その文化を作った方法を加速する必要がある。
(「バーチャル・エンジニアリング Part4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”」p.127-p.130より一部編集して抜粋)

<販売サイト>
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<書籍紹介>
書名:バーチャル・エンジニアリング Part4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”
著者名:内田孝尚・栗崎彰
判型:四六判
総頁数:228頁
税込み価格:1,980円

<目次(一部抜粋)>
序章 ほぼ完了した設計変革
第一部 モノづくりビジネスのコアとして動き出したCAE
第一章 シミュレーション活用に関して日本で知られていないこと
第二章 問われる設計の役割
第三章 バーチャルモデルが中心となるビジネス基盤構築バーチャルモデルがビジネスに
第四章 CAE/CAD/CAM連携の大きなポテンシャル
第五章 バーチャルモデル環境の成立に必要なこと
第二部 設計のためのCAEの現状とこれからの施策
第六章 設計のためのCAEの現状
第七章 CAEの位置付けと状況の変化を捉える
第八章 CAEの現場をアップデートせよ
第九章 CAEの最大活用、データドリブン型のCAEに向けて

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日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”
日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”
製造業において取引の中心であったリアル商品の代わりとして、バーチャルモデルが取引の対象となり、普及している。そのバーチャルモデルの機能パフォーマンスは、原理原則の理論に従ったCAE(コンピューター利用解析)を用いてデジタル表現されている。このバーチャル商品が、世界ではビジネスのコアになりつつある。
 日本では3D設計の普及が遅れており、バーチャル商品の流通とビジネス展開も歩みは遅い。この危機的な実態を鳥瞰(ちょうかん)し、日本の進むべき方向を解説した書籍『バーチャル・エンジニアリングPart4 日本のモノづくりに欠落している〝企業戦略としてのCAE〞」より一部抜粋し、掲載する。

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