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ソフトバンク社長「ずっと嫌いなポジションになる」…NTT法見直しで深まる対立

ソフトバンク社長「ずっと嫌いなポジションになる」…NTT法見直しで深まる対立

NTT法見直しに理解を求めるNTTの島田社長

NTT法の見直しをめぐりNTTと競合相手である通信大手との対立が深まっている。KDDIソフトバンク楽天モバイルは、NTTが25兆円の国民財産で構築した通信基盤を持つと指摘。公正競争や全国一律サービス提供、外資規制の観点からNTT法の維持を主張する。これに対しNTTは、NTT法を廃止しても競合各社の懸念事項は電気通信事業法などで対応可能とする。自民党が月内に提言をまとめるが、国内通信業界の今後にしこりが残らない結論が求められる。

【維持】競合3社、グループ統合の歯止め喪失懸念

10月、NTT法廃止に反対する会見を開いた(左からソフトバンクの宮川潤一社長、KDDIの高橋誠社長、楽天モバイルの鈴木和洋共同CEO)

「時代に合わせたNTT法の見直しは行えばよい。一方、国民の利益が損なわれるNTT法の廃止には反対だ」―。KDDIの高橋誠社長は自社の見解をこう説明する。通信業界でも国際競争が激化する中、研究成果の開示義務、社名の変更に関する規制、取締役の選任に総務相の認可が必要といった“時代に合わない”NTT法の規定の見直しには理解を示す。

一方、日本電信電話公社(電電公社)を民営化して発足したNTTは、30年の歳月と25兆円という国民財産で全国に構築した通信局舎や電柱などの「特別な資産を持つ」(高橋社長)。1985年の民営化後はNTTが巨大過ぎて競争が機能しないとして、NTTドコモNTTデータを分離した。NTT法にはグループの統合や一体化を防ぐ組織の規定がある。

だが、20年にNTTがNTTドコモを完全子会社化した。高橋社長は、01年の閣議決定でNTTのドコモ株保有比率を低下させる方針が示されたとした上で「時代が変わったといって(政府の)審議会で議論されることなく、ドコモを子会社にしてしまった」と指摘。電気通信事業法にも特別な資産の公平利用に関する規定があるが、「NTT法を廃止するとNTTグループの統合や一体化の抑止が効かなくなる」と危惧する。

NTT法では全国一律の固定電話サービス(ユニバーサルサービス)の提供もNTT東西に義務づけている。電気通信事業法だけではNTT東西に課されている義務はなく、不採算エリアの撤退も可能との見方も示す。

KDDIなど競合3社は、NTTが持つ特別な資産は他の通信事業者の設備と同列に扱うべきものではないとも説明する。他業界にも影響する外為法の強化で代替した場合は、対内投資を促進する政府の政策と整合しなくなるとして、NTT法による外資規制の維持が最も有効だと主張。高橋社長は「NTTグループ各社の一体化の防止、6000万ユーザーの保護、外資規制をNTT法で維持しないと国益や国民生活に影響が出る」として慎重な議論を尽くすべきだとした。

【廃止】NTT、電気通信事業法で公平性担保

NTTの島田明社長は競合3社の懸念事項のうち、グループ統合について「NTT東西とドコモを統合する考えはない」と断言。その上で「公正競争条件はNTT法ではなく電気通信事業法で規定されている」と指摘する。

電気通信事業法では、NTT東西の光ファイバーを第一種指定電気通信設備に指定し、公平・公正に貸し出すことを求めている。通信局舎や電柱なども公平・公正な貸し出しを求めており「引き続き、NTT東西は電気通信事業法などの法令を順守し、他事業者に対して公平にネットワークの提供などを行う」(島田社長)。このため、NTT法を廃止しても問題ないとの認識を示す。

電気通信事業法にはブロードバンドの全国一律サービス義務についての規定もある。このため、「この義務にNTT法で定めている固定電話サービスも含め、主要国と同様に電気通信事業法に統合すべきだ」と主張する。

外資規制については「経済安全保障の観点からNTT法で当社だけ守っても無意味。外為法やその他の法令で主要通信事業者を対象とする検討をすべきだ」(島田社長)とする。

20年にはロシアの産業スパイがソフトバンクの携帯通信設備情報を盗み出し、国外に持ち出したことが発覚した。「携帯通信の顧客の管理システムやコアネットワークは各事業者自らが保有・管理している。携帯通信事業者の情報や設備を守らないと通信の安定的提供を確保できない」(同)として、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルなども外資規制の対象とすることを求めた。

電電公社から引き継いだ特別な資産を持っているとの指摘には「民営化時に政府に株を割り当てた時点で資産は株主である政府に帰属する」と発言。「英仏独も過去に資産承継をしている。事業法で公平・公正な貸し出しが規律されている点は同様だが、(NTT法のような)特殊法人法は存在しない」と述べ、特別な資産の保有がNTT法維持の理由にはならないとの見解を示した。

ソフトバンク社長「“特別な資産”返すべき」

NTTは30年の歳月と25兆円という国民財産で全国に通信局舎や電柱などを構築した。この資産をどう認識するかも論点の一つ(イメージ)

ソフトバンクの宮川潤一社長は、特別な資産に関するNTTの主張に対し、「詭弁(きべん)に過ぎない」と怒りをあらわにする。電電公社の資産を継承して運用するNTT東西の株はNTTが持っているとした上で「『公社継承資産は株主のものでNTT自身は直接関係ない』と聞こえる。この資産を持つ重要性(についての認識)が希薄しているのなら非常に残念だ」と感じたからだ。このため「そういう意識であれば資産を一度国に返すべきだ」と憤る。

NTTは、電気通信事業法で特定事業者に対し、あまねく普及責務を課して退出規制を設けることは法制的に問題がないとの意見を元内閣法制局長官・最高裁判事の山本庸幸氏から得ている。だが、宮川社長は「もっと多くの有識者がおかしいと言っている。その声と声をぶつけ合って議論するのが民主国家だ」と批判する。

宮川社長は「(NTT法廃止を)押し切られても最後まで我々は腹落ちしない。ずっとNTTが嫌いなポジションになる」と怒りを隠さない。「我々はこれまで協力すべき点は協力し通信業界を引っ張ってきた。それが、こんなことで分裂して良いのか」と通信事業者間の関係悪化を示唆する。

さらに「お互いに腹を割って話し合いをきちんとするべきだ。誰かが一方的に決めるのではなく、きちんと議論した上で次の段階にいかないと、このしこりは10年20年ではとれない。日本の通信にとって非常に悲しいことだ」とも話す。

KDDIの高橋社長も「(NTT法見直しの)論点がすり替わっている。そもそも防衛財源費の確保を目的に政府がNTT株を売却するための見直しだった。防衛財源の議論がなくなったのなら見直し議論もなくしてよいのでは」とする。

不信感を高めるNTTの競合各社も一定程度、納得できる自民党の提言が求められる。

日刊工業新聞 2023年11月15日

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