船舶の脱炭素燃料、「アンモニア」に現実味の理由
毒性対策、設計で工夫
船舶の脱炭素燃料の中で特に注目はアンモニアだ。アンモニア燃料船に注力している日本郵船は、「三つの理由で現実味がある」(グリーンビジネスグループ燃料炭・アンモニアグループの六呂田高広グループ長代理)とその理由を語る。
まずアンモニアは炭素を含まないため、燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さない。同じ炭素を含まない燃料の水素と比べ少ない量でエネルギーを得られ、小さな燃料タンクで済む。そして水素よりも沸点が高く、取り扱いやすい。
一方でアンモニアは毒性がある。そこで日本郵船では、タンクの配置やエンジン設計の工夫などでエンジンルーム内での漏れを防ぎ、万が一漏れても充満せず、無害化する設計を進めている。遠隔管理技術も活用し「アンモニア燃焼時は、エンジンルームに人が入らない運用が基本になる」(同)という。
同社はIHI原動機(東京都千代田区)と開発を進めるアンモニア燃料タグボートを2024年6月に就航させる計画だ。外航船はジャパンエンジンコーポレーションやIHI原動機などと開発を進めており、26年の就航を目指す。「外航船ではまずアンモニア輸送船から開始し、荷物の一部を使いながら走る」(同)という。
商船三井や川崎汽船も同時期に実用化を目指す。商船三井はネットゼロ・エミッション外航船の1番船として26年ごろにアンモニア燃料船を竣工し、運航を開始する。川崎汽船は伊藤忠商事や日本シップヤード(東京都千代田区)などとの取り組みで、26年めどにバラ積み船の完成を目指す。
輸送対象としてもアンモニアは期待の星だ。日本は石炭火力発電でアンモニア混焼を行い、CO2排出量の引き下げを目指しており、実現すれば大量の輸送需要が生まれる。
日本郵船と商船三井はJERAの計画する発電所向けに燃料アンモニアを輸送する検討などを進めている。川崎汽船は、肥料アンモニアの輸送実績を持っており「役立つ技量はある」(池田真吾執行役員)と力を込める。
発電向けのアンモニアの輸送・供給網が構築されれば、一部を舶用燃料として調達しやすくなる。このためアンモニア燃料船の普及のカギは、エンジン・船舶技術に加え、アンモニアのコストが十分に下がり、需要が増えることと言えそうだ。
日本郵船の六呂田グループ長代理は「この数年でアンモニアを船舶で焚(た)けることと、我々が需要家たり得ることを示したい」と話す。アンモニア製造業界や海運業界、造船や舶用機器メーカーにアピールして仲間を増やし、実用化に向けた取り組みを加速する。