アンモニア・液化水素…海運の次世代燃料、本命はどれか
国際海運の次世代燃料の主流は何になるのか。アンモニアや液化水素、グリーンメタノールなどが候補に上がる中、国内各社は全方向に対応できる準備を進める。次世代燃料の決定はエンジンや船体などの技術開発だけでなく、寄港する各国のエネルギー政策が深く関係する。とても複雑で本命を決めづらいのだ。国内海運各社の取り組みを追う。
「新エネルギー(次世代燃料)船の導入と新エネ供給網の構築。この分野で劣後すると国際競争から脱落してしまう」。日本船主協会の森重俊也理事長はこう危機感を語る。船舶は他の輸送手段に比べ輸送距離や荷物ごとの温室効果ガス(GHG)排出量は少ないが、外航海運全体では世界の2―3%のGHGを排出している。外資系の荷主企業などは輸送時の排出ゼロを目指しており、対応しなければいずれ顧客から選ばれなくなる。
7月には国際海事機関(IMO)が国際海運の目標を引き上げ、2050年ごろにGHG排出量実質ゼロ、30年に排出ゼロ燃料の使用割合5―10%を目標とした。今後、脱炭素の取り組みの加速が予想される。足元で省エネ船として建造の進む液化天然ガス(LNG)燃料船に続き、排出ゼロの実現には次世代燃料が必須だ。
商船三井技術革新本部の杉本義彦技術部長は「燃料転換と技術開発で排出量ゼロを目指す」と意気込む。
同じ国際運輸を担う航空機の脱炭素燃料はほぼ持続可能な航空燃料(SAF)しかないのに対し、船舶はアンモニアや液化水素、メタノール、バイオ燃料など複数の候補がある。技術的に利用可能なことに加え、各国のエネルギー戦略の進展にも関わるため今はまだ候補を絞れない。
というのも、燃料は船舶だけでなく、発電にも使われる。例えば、日本のように石炭とアンモニアを混焼してGHG排出を減らす方針の国では将来アンモニアを調達しやすい。一方、再生可能エネによる発電に主眼を置く国ではアンモニアを調達しにくいかもしれない。しかし、船舶は各寄港地で同じ燃料を調達しなければならない。
このため、各国のエネ戦略を注視する必要があり「今できるのは、あらゆる可能性を追いかけることだ」と川崎汽船の池田真吾執行役員は話す。
また、アンモニア燃料船に注力する日本郵船では「上流の(アンモニアを製造する)プロジェクトへの投資は、強い意気込みを持って精査している」(グリーンビジネスグループ燃料炭・アンモニアグループの六呂田高広グループ長代理)。実行されれば、燃料の安定調達と輸送需要の獲得の両方につながりそうだ。脱炭素の実現に向け、各社が次世代燃料にどう向き合うかが問われている。