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【ディープテックを追え】ゲノム編集×完全養殖で「世界一」を狙う

#102 リージョナルフィッシュ

「残念ながら日本の技術力は低下してきている。そうした中、世界一を目指せる分野がここだった」。遺伝子の一部を変える「ゲノム編集」を使い、魚介類の品種改良を手がけるスタートアップ、リージョナルフィッシュ(京都市左京区)の梅川忠典最高経営責任者(CEO)は起業の思いをこう話す。

ゲノム編集食品は、従来よりも早く品種改良を社会実装できることから普及に向けた研究開発が進む。同社はゲノム編集を施した魚介類に、完全養殖技術を組み合わせることで技術の成熟を狙う。停滞が続く日本の一次産業に希望の光を照らせるか。

飼料を減らしながら可食部を増加

ゲノム編集は遺伝子の一部を変更することで、特定の機能を強めたり弱めたりする。すでにゲノム編集は農作物や医療分野での応用に多くの企業が取り組んでいる。ただ、日本勢は先行するプレイヤーの後塵(こうじん)を拝しているのが実情だ。一方、養殖技術は近畿大学が有力な知財を保持するなど、日本勢が競争力を維持する分野だ。同社は京大のゲノム編集技術と近大の完全養殖技術を組み合わせる。梅川CEOは「この分野であれば、世界一になれる」と展望する。

通常のマダイとゲノム編集したマダイの比較(下がゲノム編集したマダイ、写真は全て同社提供)

リージョナルフィッシュが2021年9月から発売を始めたマダイは、従来よりも飼料を2割減らしながら可食部を1.2倍に増加させた。ミオスタチンという遺伝子の働きを弱めることで、筋肉を成長しやすくした。

従来、魚の品種改良は優れた特性をもつ固体を選別し、掛け合わせる交配が基本だった。ランダムで起きる変異を待つため、目的の品種を作る時間が必要だった。ゲノム編集を活用すれば、短期間で簡単に品種改良ができる。

23年にも陸上養殖場を稼働

同社の試験養殖場

合わせて、同社は人工知能(AI)などを使い養殖を効率化する「スマート養殖」の開発も進める。魚の大きさなどから飼育状況を把握したり、給餌量を最適化することで、飼料のコストや水質汚染を減らす。また飼育する魚に合わせた飼育方法を適応することで、収益性の向上も見込める。

23年度にも1万ヘクタールの陸上養殖場を稼働させる。すでに販売を始めているマダイやふぐに加え、エビやイカなどの10品種を養殖する計画だ。東南アジアへの進出も進める。同社は高収量などの特性を持つ品種とそれに適した完全養殖法を組み合わせて展開する。梅川CEOは「品種と養殖法を組み合わせて、高収益な養殖業を実現する」と意気込む。

「品種改良はおいしい」の流れを作る

ただ、ゲノム編集食品に対する消費者の不安は強い。21年12月に、同社のふぐが京都府宮津市のふるさと納税の返礼品になった際には、安全性などへの不安を訴える声が市に届いた。20年に農林水産省が実施した調査でも、ゲノム編集食品を「絶対に食べたくない」、「あまり食べたいと思わない」と答えた人は合わせて約4割と社会受容性には課題を残している。

梅川CEO

ゲノム編集は自然界でも起こりえる変化を人為的に引き起こすため、安全性に問題はないと考えられている。遺伝子組み換え技術とは異なり、外部の遺伝子を導入しない。梅川CEOは「農作物や家畜では品種改良した品種のおいしさが認識されている。魚介類でもその流れをつくっていきたい」と強調する。

22年9月に複数のベンチャーキャピタル(VC)や事業会社から約20億円の資金調達を実施。事業開発を加速させる。将来はゲノム編集による品種とスマート養殖を事業者向けに展開。養殖事業者の育成にも生かす計画だ。

この連載では、「ディープテック」と呼ばれる先端テクノロジーの事業化を目指す企業を掲載します。
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