ノーベル賞で注目の「ゲノム編集」トマト、遺伝子組み換えとの違いを消費者に分かって欲しい!

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ゲノム編集技術でギャバ含有量を高めたトマト「シシリアンルージュ ハイギャバ」(サナテックシード提供)

「生命の設計図」とも言われる全遺伝情報(ゲノム)を自由に変えられるゲノム編集技術が脚光を浴びている。世界ではゲノム編集技術の一種「クリスパー・キャス9(ナイン)」が2020年のノーベル化学賞に輝き、国内では筑波大学と同大発ベンチャーが開発したトマトがゲノム編集食品の第1号として受理された。品種改良技術としてのゲノム編集の開発は今もなお用途に応じて多方面に広がっている。(山谷逸平)

ゲノム編集技術は、1990年代に開発された遺伝子組み換え技術のように外来遺伝子を導入して保有させない点で大きく異なる。

ゲノム編集技術の代表格となったクリスパー・キャス9は12年に開発された手法だ。改変したいデオキシリボ核酸(DNA)の場所を特定するリボ核酸(RNA)の「ガイドRNA」と、DNAを切断する「はさみ」の機能を持つ人工酵素「キャス9」で構成する。狙った遺伝子を改変でき、その手法が非常に容易なことから、研究者は基礎研究にこの手法を多く用いている。

筑波大生命環境系の江面浩教授と同大発ベンチャーのサナテックシード(東京都港区)が共同で開発したゲノム編集食品第1号のトマトにもクリスパー・キャス9が利用されている。アミノ酸の一種で血圧上昇を抑える働きがある神経伝達物質「GABA(ギャバ)」を作り出す酵素の活性化を抑制する遺伝子の機能を喪失させ、抑制機能を働かないようにした。その結果、ギャバの含有量を約5倍高めた。

技術進化、広がる用途

ゲノム編集技術は、クリスパー・キャス9だけではない。96年には第1世代の人工制限酵素として「ジンクフィンガー」が開発され、10年には第2世代の「ターレン」が発表された。広島大学大学院統合生命科学研究科の山本卓教授らは現在、ターレンを使って、企業とともに魚やウニの品種改良を進めている。「クリスパー・キャス9はRNAという人工核酸を使うという意味で遺伝子組み換え操作に当たるが、ターレンをたんぱく質で導入する場合は遺伝子組み換えに当たらない」(山本教授)とし、消費者が受け入れやすい技術で育種に取り組む。

より安全にあるいはより容易にゲノム編集ができる技術の開発も進む。産業技術総合研究所の研究グループは、これまで問題となっていた偶発的なゲノム配列の変異・欠失など「オフターゲット」を抑制する核酸分子を開発した。農業・食品産業技術総合研究機構は、後代世代での選抜が不要となる植物ウイルスを利用した遺伝子導入法を開発。ジャガイモなどでのゲノム編集が容易になる。

一方、ゲノム編集をヒトの受精卵に用いる時に気がかりなことも表面化してきた。日本ゲノム編集学会の会長でもある山本教授は「不妊や流産など生命現象の解明に役立つことから、基礎研究は積極的に進めるべきだが、切断によって大きく塩基が抜け落ちた事例を紹介した論文が20年に数例報告された」と注意喚起する。ヒトの受精卵をめぐっては18年に中国の研究グループがゲノム編集を施した受精卵から双子の女児を誕生させるなど、倫理的な問題を呼び起こしたが、乗り越えるべき課題が上乗せされたことになる。

インタビュー/日本ゲノム編集学会会長(広島大学大学院教授)・山本卓氏

日本ゲノム編集学会会長(広島大学大学院教授) 山本卓氏

消費者目線、受け入れやすく

―ゲノム編集は遺伝子組み換えと似たような技術とみて、受け入れがたい人は多いようです。

「ゲノム編集技術を活用しないと作れないものを生み出す必要がある。生産性向上などの生産者メリットではなく、例えば、低アレルゲンの卵を産む鶏など消費者の目線に立った品種改良をゲノム編集でしていくことが受け入れられる一歩になるだろう」

―産業利用の可能性は。

「大いにある。例えば、微細藻類はエネルギー分野であれば、航空用ジェット燃料に当たるような燃料づくりに貢献できるだろう。ほかにも化粧品や医薬品の原料になるようなものも作れる。こうした産業微生物に対して、生物工学的な手法としては昔から遺伝子組み換え技術が使われてきたが、ゲノム編集を取り入れて高機能物質を効率良く作ることが可能になってきた」

―iPS細胞(人工多能性幹細胞)を活用した再生医療での可能性は。

「ゲノム編集で免疫細胞からの攻撃を受けにくくする細胞を作れば、患者自身の細胞でなくても正常な細胞を移植できるようになる。病気の発症メカニズム解明にも必要になる」

*取材はオンラインで実施。写真は広島大提供

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ゲノム編集

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