【ディープテックを追え】「CO2を回収する産廃業者になる!」
空気中の二酸化炭素(CO2)を資源化する-。脱炭素の社会的要求が高まる中、細菌を使い“やっかいもの”であるCO2を原材料に製品を作り出す、バイオテクノロジーの社会実装を目指すスタートアップが多く生まれている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)もグリーンイノベーション基金事業でCO2などからプラスチック原料を製造する技術開発の支援を始めた。
京都大学発スタートアップのSymbiobe(シンビオーブ、京都市西京区)もその一つ。同社は京大の沼田圭司教授が開発した「紅色光合成細菌」を活用して、CO2を回収するプラントの事業化を目指す。
菌でCO2を回収
同社が使う紅色光合成細菌は、光合成の際に空気中のCO2や窒素を固定する性質を持つ。この性質を使い、2020年代中頃に工場などから排出されるCO2を回収し、固定する事業の実用化を始める計画だ。
実際には工場や火力発電所の近くに同社のプラントを設置し、排ガスを細菌に送り込みCO2を回収、固定化することを想定する。細菌は培養条件が整えば5時間で2倍に増えるという。
事業化を見据え、現在の培養装置を大型化する。京大桂キャンパス内に海水4000リットルの試験プラントを作り、実証中だ。細菌が効率よくCO2を回収し、活発に増殖する太陽光や人工光の当て方を研究する。エンジニア技術が大規模化には重要だと見ており、プラントメーカーとの協業も視野に入れる。
技術開発の資金として8月に京大が全額出資するベンチャーキャピタル(VC)、京都大学イノベーションキャピタル(京都市左京区)とビヨンドネクストベンチャーズ(東京都中央区)から約2億円の資金調達を実施した。
回収したCO2を有効利用
同時に細菌を有効活用する研究も進める。CO2を吸収した細菌から海洋分解性プラスチック、窒素を吸収した細菌から農業用肥料を製造する。水産用の試料やたんぱく質繊維での応用も目指す。現在はラボレベルでの製造だが、化学メーカーと協業して大規模生産に適したプロセスを開発する。将来は用途に合わせて最適な細菌を使うことを想定。後圭介代表は「初期の細菌を使った製品の価格は石油由来に比べて高くなるだろうが、CO2回収事業との組み合わせでコストを下げたい」と展望する。
CO2の回収では三菱重工業などが強みを持つ分野だ。加えてCO2を活用する技術開発が世界の多くの企業で進んでいる。日本では、神戸大学発スタートアップのバッカス・バイオイノベーション(神戸市中央区)などが「水素細菌」をゲノム編集し、CO2を原料にプラスチック原料を製造する研究開発を行っている。
後代表は「(光合成細菌は)CCU(CO2の回収・利用)などに比べ、コスト的に優位がある」とした上で、「(将来は)CO2排出を抑制したい企業の要望に応える産業廃棄物処理業のようになりたい」と説明する。利活用まで含めた研究開発の難易度は高いが、循環型社会の構築に向けた取り組みは続く。
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