都会の真ん中で海水魚の養殖に挑むベンチャー、社長の展望
ウィズアクア(東京都大田区、荻村亨社長)は、都会の真ん中で海水魚の養殖に挑んでいる。完全閉鎖型の陸上養殖システムで、ヒラメやフグなどの高級魚を稚魚から成魚まで育てている。同社のシステムは水中の硝酸を取り除くため悪臭の原因になる細菌がほとんど発生せず、水の入れ替えも必要ない。海洋科学の博士号を持つ荻村社長は「当社のシステムを使えば、日本のどこにでも海をつくれる」と語る。(南東京支局長・鳥羽田継之)
ベンチャーであるウィズアクアのラボは、東京都大田区にあるビルの一室だ。一般的に海水魚の入った水槽は生臭いにおいがするが、同社のラボは悪臭が一切しない。水槽に顔を近づけても、潮っぽい香りが漂うだけ。本物の海よりにおいが少ない。
悪臭がしない秘密は、脱窒装置を搭載した完全閉鎖型の陸上養殖システムにある。水槽に取り付けた汚れ除去装置は、装置内で泡を発生し物理的な濾過で取れない魚の粘液や微粒子も除去する。続く硝化槽と好気脱窒装置では、バクテリアを使い、においの元となるアンモニアを窒素ガスまで分解し除去。浄化された水が再び水槽に戻る仕組みだ。通常の養殖システムでは、水の入れ替えや水槽の掃除が頻繁に必要だが、同社のシステムは海水を継ぎ足すだけ。掃除の頻度も少ない。
陸上養殖された魚は病気になりにくく、フグの毒やヒラメの寄生虫など、エサや養殖環境に起因するリスクも取り除ける。室内温度を一定に保つことで、魚の成長を早めることも可能だ。2021年10月に銀座の飲食店で行ったヒラメの食味テストでは「天然物には一歩及ばないが、調理目的によっては銀座の店で出せる」と高い評価を得た。
良いことずくめに思える同システムだが、課題は養殖にかかるコストだ。大量の電気を消費するため、市場なら1キログラム当たり数千円で売られる魚が数万円になってしまう。荻村社長はコストダウンに取り組んでいるが、大量生産、大量消費には向いていない。そのため、釣った魚をその場で食べるレストランなど体験価値を提供する飲食店への販売を想定している。
今後は一般的に養殖が難しい、アワビや伊勢エビなどの養殖にも挑戦していく方針だ。現在は養殖会社やゲノム編集の会社など5社にシステムを販売しているが、荻村社長は「今年中に提供先を10社に増やしたい」と意気込んでいる。