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【ディープテックを追え】iPS細胞で献血にイノベーションを

iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った再生医療が一歩ずつ実用化に近づいている。京都大学発スタートアップのメガカリオン(京都市下京区)はiPS細胞由来の血小板製剤を開発中。2022年6月には血小板が足りずに出血が止まりにくくなる「血小板減少症」の患者に、他人のiPS細胞から作った血小板製剤の投与を完了したと発表した。献血に依存している輸血医療にイノベーションを起こそうとしている。

献血に依存する血小板製剤

「全ての輸血を工業製品にしたい。そのくらいの変革を起こしたい」。メガカリオンの赤松健一社長はこう力を込める。現状、輸血医療はそのほぼ全量を献血に依存する。加えて献血から作る血小板製剤は常温で4日程度しか保存できず、冷凍などの保存方法を使えなかった。こういった点から血小板製剤は需要調整に注意を払う必要があった。

メガカリオンはこうした課題をiPS細胞由来の血小板で解決する。製造方法はこうだ。まずはiPS細胞から造血前駆細胞を作る。ここに「細胞を増やし、老化や細胞死を防ぐ」遺伝子を導入して、血小板の前段階にあたる巨核球を樹立する。この巨核球は冷凍でき、長期保存が可能だ。血小板製剤として使う際には、この巨核球を培養、精製して血小板を作る。

同社が開発する血小板製剤

すでに臨床試験を始めており、早ければ24年にも承認申請をしたい考えだ。同時に技術開発も進める。血小板輸血を繰り返す患者には、人の免疫機能に関わる「ヒト白血球抗原」(HLA)によって作られる抗体により、輸血の効果が得られなくなる場合がある。同社はHLAの型に依存することなく使用できる血小板を開発する。赤松社長は「HLAの型に関係なく使用できれば、海外への展開も狙える」と展望する。

課題はコスト

赤松社長(同社提供)

一方、課題もある。製造コストだ。従来の血小板製剤に比べ、高価になってしまう。そこで将来は製造方法の最適化を進めたい考えだ。巨核球の培養に適した装置を開発し、大型化によってスケールメリットを出すことを視野に入れる。エンジニアリング技術が重要だと見ており、協業なども目指す。足下では治験を通じてiPS細胞由来の血小板製剤の有効性を検証しつつ、コストダウンを進める。

血液製剤は安定確保の観点から輸出は原則承認されない。赤松社長は「輸血医療は広い意味で安全保障だ」と訴える。iPS細胞から輸血医療が行えれば、献血に依存していた供給面を安定できる。「幅広い地域で使えれば、離島など輸送に制限がある地域にも輸血医療を届けられる」と期待を込める。コストなど乗り越えるべき課題は大きいが、イノベーションを起こす挑戦は続く。

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