【ディープテックを追え】AI同士が”競争”、合成データでディープラーニングの弱点を補完

#72 データグリッド

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無数の人の全身写真。これは「敵対的生成ネットワーク(GAN)」と呼ばれる技術で、人工知能(AI)が作り出した実在しない人の写真だ。手がけたのは、京都大学発スタートアップのデータグリッド(京都市左京区)。同社はこの技術で深層学習(ディープラーニング)の学習プロセスの効率化を目指す。

AI同士を競わせる

社会実装が進むディープラーニングには弱点がある。学習に大量のデータが必要な点だ。また、データが少ない場面はAIが認識できるようにするためのデータ量の確保が難しかった。データグリッドはGANを使い、合成データを生成。このデータでディープラーニングの弱点を補う。

GANのイメージ

GANは二つのAIを競わせることで、データの質を高める技術。片方のAIが「本物に近い」合成データを作り出す。一方のAIがこのデータを偽物か見極める。偽物であると見極められた場合は、その原因を分析して再度、生成データを作り出す。このように合成データの真偽をAI同士で競わせることで、実物と見間違うようなデータを作れるようにする。

同社はこの合成データを、ほかのAI開発企業に外販することを計画する。岡田侑貴最高経営責任者(CEO)は「希少なデータに加え、個人情報保護の規制からデータの取得が困難な場合にも有効だ」と指摘する。学習データが不足する場合も、現実のデータと生成データを組みわせることで、AIの精度を高めることができるという。

自社サービスに応用

ユーザーの全身画像と服の画像を合成する(同社提供)

現在は自社のバーチャル試着サービス「kitemiru」の開発を進める。アパレル企業のECサイトに掲載される着用イメージと、ユーザーの全身写真をバーチャルで合成。購入を検討するユーザーが、自身のスマートフォンで疑似的に試着ができるサービスだ。合成データの外販を目指し、自社サービスを使った実証に力を入れる。2023年4月ごろの外販サービス開始を目標に、必要とされる機能の絞りこみを行う。

現状の開発リソースは人物の合成データに集中させるが、今後は産業分野での応用も視野に入れる。製造業の不良品検査や希少疾患の診断支援など、データ量が少ない事例を学習するのに使う想定だ。

「ディープフェイク」の懸念も

岡田CEO(同社提供)

AIの精度を高めることができるGAN。一方で実物と見間違うほどの画像を作れることでのリスクも存在する。「ディープフェイク」という精巧な偽のデータが作られる懸念だ。岡田CEOも「負の側面があることは事実」と話したうえで、「偽物を見分けるAIの進歩を高めることも重要だ」と話す。同社は自社サービスで不正利用がされないように監視していくとしている。今後、偽物を見極めるAIの研究開発も検討する。

学習データをAI自身が作り出せれば、AIの精度向上や安価に利用できる可能性も広がる。ただGANの特性上、人間の目では真偽を判断できない画像が生まれる危険性もある。利便性と不正利用の「いたちごっこ」が続くなか、活用シーンの拡大だけでなく、不正検出の技術確立も求められそうだ。

この連載では、「ディープテック」と呼ばれる先端テクノロジーの事業化を目指す企業を掲載します。
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COMMENT

小林健人
デジタルメディア局DX編集部
記者

まさにデジタルヒューマンさながらの技術です。記事内でも書きましたが、ディープフェイクの可能性は排除できません。今後はAIの利便性だけでなく、懸念をどう埋めるかが重要かと思います。

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