【ディープテックを追え】「光の波を捉える」ライダーで自動運転の巨大市場を狙う
完全な自動運転の実現に向け、人工知能(AI)やセンサー類の研究開発が進む。特にキーデバイスとされるのが、光を利用した高機能センサー「LiDAR(ライダー)」だ。従来のセンサーやカメラでは捉えきれない対象物との距離を認識し、自動運転の安全性を大幅に高める。
矢野経済研究所(東京都中野区)は、ライダーを含むレーザー機器の市場規模は2030年に約4959億円になると予想する。成長する市場を射止めようと、世界中で開発競争が進む。SteraVision(ステラビジョン、茨城県つくば市)は光の“波”を捉えるライダーで巨大市場を狙う。
ライダーとは?
ライダーは対象物にレーザー光を当て、その反射光から距離を求めるセンサーのこと。従来のカメラやセンサーでは対象物との距離を測ることが難しく、常に変化する道路状況に対応できなかった。ライダーを導入することで建物や歩行者、対向車など対象物の位置関係を把握でき、自動運転の安全性を高めることができる。
現在、広く研究されるタイム・オブ・フライト(ToF)方式はレーザー光を照射し、反射してきた光を捉えるというものだ。ただ反射光を捉える特性上、強い太陽光やほかのライダーのレーザー光によって検知漏れが発生する可能性がある。ステラビジョンの上塚尚登社長は「ToF方式では天候が悪い場合などでも検知漏れが起きる」と指摘する。同社はToF方式の欠点を補うべく、周波数連続変調(FMCW)方式のライダーを開発する。
FMCW方式とは?
FMCW方式では、光の周波数を変えながら連続的にレーザー光を照射し、反射した信号の周波数が物体との距離によって変化することを検知する。相対速度で波長が変化する現象「ドップラー効果」を使い、対象物の速度と距離を求める。
光の向きは、ソリッドステート型スキャナー「MultiPol(マルチポール)」で切り替える。0か1というビットをスイッチングパネルで切り替え、偏光フィルムの向きを調整して光の向きを変える。モーターなどの可動部がないため、光のサイズを大きくしたり、小型化やコストダウンに寄与する。光を走査するのでなく、任意の場所に照射できる。そのため視野全体を計測しつつも、特定の範囲に計測点を集めることができる。距離と相対速度から急接近している物体を集中的に監視するなど、柔軟な計測ができる。
「レベル4や5を狙う」
また人工知能(AI)の処理とカメラを組み合わせることで、効率的なシステムを目指す。近距離などはカメラとAIで処理をする。その代わり長距離などは、ライダーによる計測をAIの行動予測に反映する。現状、大量の点群データをライダーで計測し重要な部分をAIが処理する方法をとっている。この際、使用しなかった点群データは使われずにいる。同社の方法では、あらかじめ重要な部分をライダーで計測し、AIで処理することで電力消費やコストの低減につながると考える。
上塚社長は「我々の目標はレベル4や5の自動運転に向けて供給することだ」と力を込める。先進運転支援システム(ADAS)のようなレベル2であれば、コモディティ(汎用品)化は避けて通れないと見るからだ。レベル4や5であれば、これまでの自動車とは異なる価値を提供ができることから、高性能なライダーは高価格帯で販売できるとにらむ。今後は長距離用の専用レーザーを開発する。量産化を見据え、性能と設計能力を高める。また、鉄道や建設機械、FAでも応用の可能性があるとして、市場の開拓を進める。
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