トヨタ・プリファードなど挑む、「研究DXビジネス」の課題

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研究開発のデータ活用を高度化する研究デジタル変革(DX)のビジネスが立ち上がっている。大学やベンチャー、大企業などの研究者が人工知能(AI)技術を含めたデータ活用のツールを開発し事業化を目指す。課題は人工ビジネスからSaaS(サービスとしてのソフトウエア)への移行だ。研究者という専門性と人件費が高い市場で技術コンサルティングを展開しても広がらない。人材基盤を底上げする必要がある。

名大 ベイズ超解像、早期実装

「AIやデータ科学は、それを利用する側の研究者が理解し、ツールを開発すべき」と名古屋大学の原田俊太准教授は強調する。自身は結晶材料の研究者だ。パワー半導体などに用いられる炭化ケイ素の結晶を極めて高品質に作る技術を開発する。材料研究に用いる分光分析や電子線、X線のスペクトルを高解像化するベイズ超解像という技術でベンチャーを立ち上げる。

ベイズ超解像は画像処理の分野で発展してきた技術だ。安価な計測機器で約100倍の解像度を実現した。いわゆるITやデータ科学を材料研究に応用して起業する。原田准教授は「自分は結晶に研究者人生を懸ける。そこから生まれたITツールはベンチャーで社会実装したい。M&A(合併・買収)など、早く世に出せる形を探したい」と説明する。

トヨタ 材料・データ解析、計画支援

実験データにAI技術やデータ科学を用いる手法は研究開発のDXとして官民挙げて推進されてきた。トヨタ自動車は材料分析・データ解析クラウドサービス「WAVEBASE」を展開する。同サービスではスペクトルデータからAI技術などで特徴量を抽出し、主成分分析で性能に効く要素を特定する。スペクトルの解釈を助けるサービスだ。

現在はサービスの概念実証(PoC)としてデータ活用コンサルの伴走支援を行っている。WAVEBASEはSaaSとして提供されているが、システムにどんなデータを投入すればよいか研究計画を支援している。ただ大企業の研究者のような人件費の高い人材が伴走し続ける必要があるとなると、ビジネスとして成り立つか課題だ。トヨタの矢野正雄主幹は「ツールの使い方や分析の仕方でなく、どんなデータを集めるか、研究の構想を支援している。これは必ず自走する」と説明する。顧客が研究者であるため、先端計測機器と同様に要領さえつかめば自身で研究計画を立てられる。

プリファード 原子レベル予測、海外開拓

プリファード・コンピュテーショナル・ケミストリー(東京都千代田区)は、深層学習を駆使した汎用原子レベルシミュレーターを展開する。SaaSを前提としてサービスを組み立てた。そのため開発者が顧客をサポートしつつ、サービス開始半年で黒字化した。木元正孝取締役技術営業部長は「日本の国内市場は約70億円。2022年内には海外市場の開拓を始めたい」と説明する。海外展開はSaaSとしての完成度がより求められる。

各社サービスのインターフェースをやさしくし、研究全般で使えるように汎用的な機能を提供している。それでもユーザーの研究者が勘所をつかむまでの支援は必要で、各研究分野の特殊性にも対応が必要だ。顧客開拓が研究者の育成に近い状況にある。採算性のみを考えると手離れよくユーザーを育てたいところだ。

文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業の伊藤聡サブプログラムディレクターは「各社のデータサービスと、国が進める研究DXや人材育成が同じ方向を向いている。産学で相乗効果を出していきたい」と力を込める。国策として研究力を高度化し、同時に日本発の研究DXサービスで市場をとる。研究開発戦略と産業政策の連携が求められている。

日刊工業新聞2022年2月28日

COMMENT

小寺貴之
編集局科学技術部
記者

国の研究開発環境への投資が、研究者を相手とする研究支援サービス事業を育てられないのかと思います。計測分析機器はできていました。規模は世界一ではなくても、独自性のあるメーカー何社も日本にはあります。データインフラでも同じことができないかと思います。計測装置よりもプラットフォーム効果を発揮しやすいビジネスモデルになるため、海外勢に押さえられると取り返しがつきません。科学論文の二の舞は避けなければなりません。科学技術戦略と産業政策の連携は必須で、経済安全保障も絡むのかもしれません。

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