【ディープテックを追え】窓ガラスで発電!?京大発スタートアップが透明太陽電池の実用化を目指す
京都大学発スタートアップのOPTMASS(オプトマス、京都市左京区)は、京大化学研究所の坂本雅典准教授が開発した透明太陽電池の社会実装を目指す。坂本准教授は「将来は高層ビルの窓ガラスから電力を生み出すようにしたい」と力を込める。
ナノサイズの構造物で赤外光を吸収
赤外光は可視光線の赤色よりも波長が長く、エネルギーが小さいため、これまで発電にうまく利用できなかった。また赤外光を効率よく吸収し、変換できる素材が存在していなかった。オプトマスが研究する透明太陽電池は赤外光だけを吸収し、電気に変えることを目指す。
原理は、入射した光が金属表面に当たると電子が一斉に振動する「表面プラズモン共鳴」を利用するもの。その中でもナノ(ナノは10億分の1)サイズの構造物で起こる、局在表面プラズモン共鳴を使う。この現象を使って、特定の周波数の光をナノ粒子で選択的に吸収する。透明太陽電池であれば、人間の目には見えない赤外光のみを吸収する。そうすることで人の目で認知できる可視光は通す、太陽電池を実現した。
すでに数センチメートル四方のガラス太陽電池は開発済み。当面の目標は太陽電池の大容量化と変換効率の向上だ。単体セルで3~4%の変換効率を目標にしつつ、8年後の2030年ごろの量産技術の確立を目指す。坂本准教授は「仮にあべのハルカスのガラスを太陽電池にすれば、メガソーラー級の発電を実現できる」と話す。
熱戦遮蔽材として応用
22年の春からは、太陽光の一部を遮蔽(しゃへい)できる粒子をインクにして素材メーカーに向けて販売する。建材や熱線遮蔽フィルムなど、さまざまなシーンでの利用を想定する。京大が全額出資する京都大学イノベーションキャピタルから約3500万円の出資を受けた。資金は粒子インクを製造する設備に使う。
従来のシリコン製の太陽電池ではうまく利用できなかった赤外光。エネルギー自体は小さいが、太陽光の約半分を占めるとされ、数%でも利用できれば莫大なエネルギーを得ることができる。坂本准教授は「これまでの街はエネルギーを使うだけだった。ビルで発電できるようになれば災害時の停電を防ぐなど、自然災害へのレジリエンス(復元力)が高まる」と利点を強調する。ペロブスカイト太陽電池など、設置する場所を選ばない太陽電池の開発は進む。環境意識の高まりもあり、熱線遮蔽材と透明太陽電池の市場規模は拡大するとされる。反応効率の向上に加え、製造ノウハウの蓄積にも注目だ。
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