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新規参入が相次ぐ宇宙産業、知財戦略で最も重視すること

技術の「見極め」と「整理」が重要
新規参入が相次ぐ宇宙産業、知財戦略で最も重視すること

光通信を利用した人工衛星向けの通信インフラ(イメージ)

筑波大学発の宇宙ベンチャー、ワープスペース(茨城県つくば市、常間地悟最高経営責任者〈CEO〉)は、超小型人工衛星や光通信関連の技術などの知的財産対策に力を入れる。宇宙産業は国際競争が激しくなる一方で、知財の取り扱いが難しい分野であるため緻密な戦略が必要だ。同社は専門家と連携して事業スピードの加速を図る。(飯田真美子)

有益な技術見極め整理

ワープスペースは、有益な特許創出に役立つ技術について、整理や抽出する仕組み作りを強化している。同社は衛星間での光通信ネットワークの構築を目指しており、要素技術となる通信データの制御やインターフェースの仕様がカギとなる。

その領域を中心に知財対策をするため、ソニーグループなどで知財関連を担当した片岡将己氏を知財責任者に、知財・商取引担当の顧問弁護士に内田誠氏をそれぞれ迎えた。

ワープスペースの常間地CEOは、「特許化して有益な技術を見極め整理することが重要」と意図を語る。

宇宙業界の知財管理は特殊だ。例えば人工衛星に搭載された基板やアンテナなどの技術は、宇宙空間に打ち上げてしまえば誰も取り出して見ることはできない。そのため、そもそも特許などを取得する必要がなく、特許化しない方が今後の運営面で効率の良いケースが多い。既存の成果を“見える化”して特許化すべきか否かの分類が重要となる。

ワープスペースの常間地CEO

ワープスペースは通信衛星に特化した技術を開発しており、光通信を使った人工衛星向けの通信インフラ事業の準備を始めている。宇宙空間にネットワークを作り、人工衛星で地球を観測したデータを24時間365日地上へ大量に送れる体制を整備する。

今後、中継衛星を高度1万キロメートルに打ち上げ、低軌道の人工衛星が捉えたデータを中継衛星によって地上局に送る仕組みを構築する。現在は、同社の超小型人工衛星「日輪(にちりん)」で低軌道の電波や放射線環境を調査している。

JAXAと連携

これらの技術は、筑波大の人工衛星開発プロジェクトが源流だ。同大で開発した技術をワープスペースに移転して事業化した。現在も同大と連携し、試験設備の共同利用や人材育成を兼ねて学生に一部の業務を担当してもらうなどしている。また社員を大学の研究室に派遣し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や他大学と連携する機会を増やすことで、より高度な技術を獲得して知財を積み重ねている。

超小型衛星の小型化は年々進んでいる。同社でも小型で長距離の光通信ができる人工衛星の開発を急いでいる。宇宙放射線で劣化しやすい光ファイバーの補助体制や、太陽光パネルの改良、補助電源を搭載するなどして電源を強化する予定だ。

常間地CEOは「宇宙空間での通信技術の仕組みを構築できればそれが強みになる。これらを標準化・規格化して基準を作り、当社の知財にしたい」と意気込みを語る。

日刊工業新聞2021年7月26日

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