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【ディープテックを追え】ゴミから電気を、“被災地”生まれのエネルギーシステム

#7 サステイナブルエネルギー開発

2011年3月11日。東北地方をおそった東日本大震災の被災地では電力不足に加えて、生活ゴミの収集が追いつかず路上に溢れていた。

同じころ、光山昌浩社長は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同研究で下水道の汚泥を固形燃料に加工し、ボイラーを動かすことに成功していた。その成果を活用し、固形燃料とボイラーで被災地の温浴支援を行っていた。その際、被災地のゴミの山と電力不足の現実を眺めながら、こう考えていた。「この溢れているゴミを燃料に変えて、電力を作れないだろうか」。この考えを実現するために光山社長が立ち上げたのが、サステイナブルエネルギー開発(仙台市青葉区)だ。

様々な形態のゴミを分解

同社の「ISOP-S」

同社は「亜臨界水」と呼ばれる高温・中圧の水処理技術で廃棄物を炭化させ、再生可能エネルギーとして発電できる設備「ISOP-S」を提供している。水は100度に達すると、水蒸気となって空気中に放出されるが、密閉された環境では水蒸気に変わることができず、水に戻り容器内の圧力が上昇する。この作業を繰り返し水の温度を374度、圧力を22メガパスカルまで上げると、水は液体でも気体でもない状態になる。この状態を臨界点と呼び、その点に近い領域を亜臨界水と言う。

亜臨界水は分子がくっついたり、離れたりを絶えず繰り返す。その過程で高分子の物体を「ハサミ」のように切り離し、低分子にする作用がある。この作用を使い、高分子のプラスチックや有機廃棄物を低分子化し分解するのが亜臨界水処理だ。この方法を使えばプラスチックや水分量が多いゴミなど形態が異なる物質を同時に処理できる。

亜臨界水処理を施した廃棄物

同社は亜臨界水処理で得られる廃棄物から、石炭代替燃料である炭化ペレットを作り出すビジネスを展開する。炭化ペレットは石炭と同様のエネルギー効率を持つといい、現状の火力発電所でも使用できる。亜臨界水処理では分解しきれないマイクロプラスチックが混入している可能性もあるが、燃料として利用することでこの懸念も克服した。光山社長は「ISOP-Sは、亜臨界水処理と炭化ペレットを1つのシステムで完結できる。地域で使えば、エネルギーの自給自足も可能だ」と語る。

光山社長(取材はオンラインで行った。写真は提供)

地域での利用も想定

すでに産学官によるプロジェクトも始動しつつある。現在、仙台市と東北大学が共同で進める「スーパーシティ構想」に参画。同社のシステムを使い、廃棄物から作り出した炭化パレットで水素を生成し、その水素を使い燃料電池車(FCV)を走らせる構想を持っている。そのほかにも、福島県で放射能汚染された樹木から、炭化ペレットを生成する取り組みも始める予定だ。樹木を伐採した場所に植林を行い、里山の回復も推進していく。

ISOP-Sの最大のメリットは、エネルギーの供給構成の約3割を占める石炭火力発電の設備をそのまま転用できる点だ。同社の炭化ペレットは石炭のように使用し、既存の設備で発電が可能だという。火力発電は温室効果ガスの排出が懸念されるが、一般ごみを収集し、焼却処分している現状と比較すると、亜臨界水処理を使った発電設備はトータルの温室効果ガスを削減できる。

廃棄物から生成した炭化ペレット

自治体への大型システムを導入しつつ、見据えるのは小型化だ。ボイラー技士の資格を持っていない人でも扱えるよう、フルオートで廃棄物を処理できるシステムを開発している。今年度中に試作品の作成を目指している。

発電設備を各地に分散できるのは、持続可能な社会の観点だけではなく、災害対策においても重要だ。将来的には同社のシステムを使うことで、ゴミ処理施設と下水道、発電所をミックスしたような運用も実現できそうだ。環境に優しく、災害に強く、自治体でも運用できる。今後の日本社会にとって必要な技術の実現がもうすぐそこまで来ている。

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ニュースイッチオリジナル
小林健人
小林健人 KobayashiKento 第一産業部 記者
記事で掲載した「ISOP-S」は様々な形態のゴミを一緒に処理し、石炭代替燃料を作ります。カーボンニュートラルの観点から言えば、二酸化炭素が排出される石炭火力発電は縮小の一途です。ただ、国内のエネルギー構成の約3割を占める石炭火力の設備を転用できる点は大きな魅力です。今冬の電力不足逼迫など、自然環境の影響を受けやすい日本において太陽光や風力のみの構成にリスクも伴います。今後、同社が小型化を進めれば、エネルギーの自給自足という側面も訴求できそうです。

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