セイコーの「男女の壁を超える時計」は若者に響くか?

ひろがるジェンダーレス #1 セイコーウオッチ

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企業の製品開発で「ジェンダー(社会的性差)」が重要テーマとして浮上してきた。意図的でなくても性差別的な表現や誤ったメッセージを発信すれば、交流サイト(SNS)などを通じて「炎上」し企業ブランドまで毀損しかねない。製品開発にジェンダーの要素を適切に取り入れられるかが問われる。
一方、「ジェンダーレス」、「ジェンダーフリー」など、性別に関係なく利用できる商品やサービスが増えつつある。男女の区分けをなくす、今までにない商品設計で新たな顧客を開拓している。

男女がはっきり分かれた商品展開が当たり前だったものの1つが、腕時計だ。腕のサイズの違いの他に、嗜好や時計に求める役割の差が背景にある。しかし近年、男性が細身の腕時計を付けたり、女性が大振りな時計を好むといった傾向が見られるようになってきた。若い世代をターゲットにし、同社初のジェンダーレスブランドを立ち上げたセイコーウオッチ(東京都中央区)に話を聞いた。(取材・昆梓紗)

時計離れを食い止めたい!

「いまの若者にとって、時計は欲しいものリストの最後尾に位置する存在」と話すのは、同社商品企画二部の渡邊花奈子氏。2019年、同社のカジュアルライン「ALBA」が40周年を迎えるにあたり、“時計離れ”が顕著なZ世代(10代~20代前半)にアピールできるような商品が求められていた。
 調査を進めていくと、レトロファッションの復刻で古着を取り入れたジェンダーレスな装いや、男性がメイクをしたり、女性向けの服を着こなしたりといった若者のトレンドが見えてきた。
 時計業界でも、男性が小さなサイズ、女性が大きなサイズの時計を選ぶといった傾向が見られるようになっていた。「もともと男女で分ける商品展開に疑問を持っていた」という渡邊氏は、男女を分けず、ジェンダーレスなブランド「fusion(フュージョン)」の立ち上げを決めた。

これまでに発売したラインアップ

同社では、企画の段階から、基本的には男女別に商品検討をしている。
その理由としてまず、腕の太さの違いがある。これに合わせ、社内規定で男女別にバンドの長さなどが決められている。
 そして男女の時計に求める機能や役割の違いが、商品企画の違いに表れている。男性は高い機能性を求め、コンサバティブなデザインを好む。高級時計を購入するのも男性が多い。一方、女性は時計をアクセサリーのように捉えている面があり、煌びやかで宝石が付いたものが多い。いろいろなデザインを持ち、ファッションによって付け替えたいというニーズもある。また、使用色も男女で分かれていた。
 「時計は既成概念が強い業界」と同社同部の竹内千恵課長が話す通り、この男女が分かれた状況はほとんど揺るぎないものだった。「ボーイズサイズ」として、女性でも使用できるサイズやデザインで作る事はあったが、色合いやバンドの長さなどは、男性用になっていた。そのため、完全に女性にはフィットしなかった。

しかし、Z世代のトレンドを見ていると、このような時計の作り方とは相いれない部分がある。「既成の価値観を超えた商品設計でないと、若者に寄り添った形にならないと感じた」(渡邊氏)。 フュージョンでは、ケースの径を36-38mmに設定。男性のミディアムサイズ、女性では少し大きめのサイズだ。またバンドの長さは調節穴を増やすことで対応した(※)。

一周回って新しい

時計に興味のない若者に立ち止まってもらうため、サイズは揃えながら、デザインにバリエーションを持たせているのがフュージョンの大きな特徴だ。現在、5ラインを販売。ファッションやカルチャーでかつての流行が男女ともに一周回って新しく取り入れられている現象に着目し、それぞれ50~90年代を切り取って新しい要素を加えたデザインになっている。9月に発売した新作では、80年代に流行したようなアメリカ西海岸のネオン風のデザインを取り入れた。

9月に発売した新作
 これに伴い、使用するカラーも男女の垣根を超えている。カラフルな蛍光色をアクセントに使い、蓄光して暗闇で光るなどの遊び心が散りばめられている。また、また、社内規定では、基本的にブランドロゴは、判読性の高い色で12時位置に配置すると決まっていたが、フュージョンではロゴTシャツのようにあえて大きく配置したり、色をピンクにするなどの工夫を凝らした。
 また若手クリエイターとのコラボレーションも積極的に行い、大胆な色遣いやディテールを実現した。LGBTのクリエイターも起用し、ここでもジェンダーレスな側面を見せている。
 実用面だけでなく、スーツなど男性の限られた着こなしの中でおしゃれを楽しめるものとしても時計は選ばれてきた。同社では男性向けの商品が多く、「グランドセイコー」をはじめ高価格帯商品にも強みを持つ。しかし若者世代ではファッションに時計を取り入れる文化も薄れつつある。「カラフルなスニーカーをファッションに取り入れるように、時計をアクセントにしてほしい」(渡邊氏)。

名前の通り、昔と今のカルチャーの融合、そして男女の融合=ジェンダーレスが表現されている「フュージョン」。しかし、あくまでもファッションに関心の高いZ世代向けに用意したブランドであり、時計業界全体では依然男女別のブランディングの傾向が根強い。時計を隔てる男女の壁は高い。

(※)メタルバンド以外

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COMMENT

昆梓紗
デジタルメディア局
記者・編集者

時計業界では少しずつ、ジェンダーレス化が進みつつあります。時計の役割や存在が変わりつつあることも影響しているように思います。

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