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全員が同じ黒い制服のメズム東京、たった一つのルールは「かっこよく着る」こと

ひろがるジェンダーレス #2 メズム東京
全員が同じ黒い制服のメズム東京、たった一つのルールは「かっこよく着る」こと

 

ロビーに足を踏み入れると、スーツをぴしっと着たスタッフが笑顔で出迎える―。どこのホテルでもある風景だが、2020年4月に開業したメズム東京(東京都港区)では少し異なる。出迎えるスタッフは、誰もが同じ、真っ黒でモード、個性的な制服を着ているのだ。
 「お客様からは『印象に残るファッション』と好評で、海外の方からも高評価です」と話す、生沼久総支配人のこだわりとメッセージが詰まった制服について聞いた。

東京の「今」感じる要素

JR東日本グループが初めて駅を離れて開発に着手した「ウォーターズ竹芝」の一角に位置する同ホテルは、マリオット・インターナショナルの「オートグラフ -コレクション」ブランドに加盟している。このブランドでは、個性が際立つ「唯一無二」のホテルであることが求められる。
 「TOKYO WAVES」がメズム東京のコンセプト。東京湾とスカイツリーを臨む水辺のロケーションから着想を受け、“変わりゆく東京”をの躍動感を五感で感じられるホテルを目指している。
 そして「スタイル」「おもてなし」「インスピレーション」を柱に、東京の今を感じさせる工夫を凝らしている。

生沼久総支配人

「スタイル」の面では、東京発の「モード」を軸に据えた。生沼総支配人が求めるのは「かっこよさ」だ。「『東京の今』を表現しようと思ったとき、従来のホテルのようなオーソドックスなスーツスタイルは違うと感じた。またカジュアルなスタイルも“クール”とは言い難い。第三軸としてモードを表現しようと考えた」(生沼総支配人)。
 そして東京発モードブランドの代表格であるヨウジヤマモト社に制服を作ってもらえないかと声を掛けた。ベースは「Y's(ワイズ)」のライン「Y'sBANG ON!」(※)に決まった。そこに洗濯に強い素材やサイズ調節のしやすさを加えた、ジャケット、ブラウス、パンツ、ポシェットの制服一式を制作した。

腕にはオリジナルの刺繍が入る

ヨウジヤマモト社とのコラボレーションは同ホテルの「インスピレーション」面にも大きな影響を与えた。「制服づくりを行っていく中で、デザイン画を起こすだけがデザインではないと知った。パターン、生地、縫製など、ものづくりの過程全てがヨウジヤマモト社のデザインであって、ブランドや品質の高さにつながる。この精神をホテル作りにも参考にしたい」(生沼総支配人)。
 ただ近年ではこういったモード服を着る日本人は少なくなっている。制服を通して高品質な服作りの良さや、文化を伝えたいと生沼総支配人は意気込む。

働きやすさとジェンダーレス

現在、多くのホテルがフロント、ベルスタッフ、ドアマンなど役割ごとに異なる制服を採用しており、もちろん男女でも違う。しかし同ホテルでは、宿泊部門・料飲部門の垣根のないワンチームでの接客サービス「スターサービス」を採用しており、セクションに関係なく全員が同じデザインの制服を、S、M、Lの3サイズから選ぶことになっている。
 「ホテルでは近年スタッフの女性比率が高まっており、仕事内容も男性と変わららない。基本的に立ち仕事で、重労働や激しい動きも多い。にもかかわらずスカートやヒール靴を履かなければならないのは疑問だった」という生沼総支配人。また男女ともに体型にぴったり合った制服を着ることで動きも制限される。
 そこでメズム東京の制服は働く人の快適さと機能性を考慮し、動きやすくゆったりした作りで、これと合わせてヒールのないワークシューズを推奨した。腕まくりをしたり、ズボンの裾を絞ったり、着こなしも自由。各自に任せているため、同じ制服でもセンスや体型により個性が出る。ルールは1つだけ、「かっこよく着る」こと。モードの世界観を保つため、着こなしのレッスンや、プロのメイクアップアーティストによるモードを意識したメイクレッスンも行っているという。

ズボンの裾を絞ったり、腕をまくったりと各人がかっこよく見える着こなしを工夫

「かっこいい」は男女共通

メズム東京のブランディング要素として、ジェンダーレスは大いに影響していると生沼総支配人は話す。女性を意識してブランディングしたり、マーケティングを行うラグジュアリーホテルが多いというが、「男性利用客も満足させるホテルを作りたい」という意識が強かったと振り返る。
 例えば女性客を意識して選定されがちなアメニティも、同ホテルではメンズスキンケアブランド「バルグオム」とコラボレーションし、ジェンダーレスなバスアメニティシリーズを採用している。今後は秋冬に向けてジェンダーレスな帽子、コートの制服を準備している。

アメニティ「THE BLEND」は男女ともに心地よい香りを目指した
 「『かっこいい』という言葉は男女関係なく使う。それを追求していくとジェンダーレスにつながるし、東京の今の雰囲気がそういった方向性になっていることが表れていると感じる」(生沼総支配人)。

従来の「ホテルらしさ」を見直し、新たな目線で作り上げてきたメズム東京。その過程の1つとして「男らしさ」「女らしさ」を超えたジェンダーレスな制服やアメニティを採用してきた。「今後も従来の価値観に囚われた『〇〇らしさ』を超え、『それ自体がどういった価値を持つのか』を見直して新たなホテルを作っていきたい」(生沼総支配人)。

(※)「Y's(ワイズ)」は1972年に山本耀司氏の最初のブランドとして創設された、ヨウジヤマモト社の旗艦ブランド。「Y'sBANG ON!」はメンズパターンをジェンダーレスに表現している。

昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
同じ制服であっても、着こなしをそれぞれの体型やスタイルに合わせることで、逆に個性が際立つ、という不思議な効果が生まれていました。生沼総支配人もヨウジヤマモト社の服を個人的に購入し、ホテルのイメージに合わせて着こなしていました。

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