飲食業界のイノベーターが断言、これからは「人」が最大の競争力になる

カスタムサラダ専門店で躍進するクリスプホールディングス

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東京都内を中心に店舗を増やし注目度が高まっているカスタムサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS(クリスプ・サラダワークス)」。運営するクリスプホールディングス(東京都渋谷区)の宮野浩史社長はこれからの飲食業界を背負って立つ人材になるかもしれない。
 新型コロナウイルスの感染拡大で苦境に立たされる飲食店で、生き残り、成功する条件は何か。クリスプの戦略から「人×テクノロジー」というキーワードが浮かび上がる。(取材・昆梓紗)

「人」は無駄ではない

近年の飲食業界はレシピのオープンソース化が加速、ネットで世界中の飲食店の情報や内外装を見ることができるため、比較的容易に店舗のレベルを引き上げることが可能になった。その結果、店舗の雰囲気や「映え」などを意識した見た目、話題性などの体験を提供することが重視されている。
 「成功する飲食店は料理、箱(店舗内外装やデザイン)、人で決まる。しかし前者の2つは差別化要因ではなくなりつつある」と宮野社長。また、新型コロナウイルスの感染拡大により、テイクアウトやデリバリーなど、体験がさらに多様化、複雑化している。

飲食店のコストカットと言えばまず従業員の削減だが、もともと飲食業界は接客が得意で、そこに魅力を感じる利用者が多い。しかし現状は、接客している時間よりも掃除や仕込み、データ入力などの作業に追われている。その結果、人でなければできない声掛けや気配りなどが削られている。しかし今後は無駄と思われがちな「人」が競争力を左右する。

クリスプが1号店を東京・麻布十番にオープンしたのは2014年。オープン当初から話題になり、行列ができた。しかし、オペレーションに追われた結果、来店客への声かけやコミュニケーションがおろそかになってしまった。これを苦慮した宮野社長は、「人」しかできない仕事を最大化させるため、テクノロジー導入を決意した。
 だが当時、飲食店向けのテクノロジーは、生産性を上げ、人件費を抑えるといった目的のものが多かった。目指す方向性との違いから自社でのシステム構築に踏み切り、2017年に開発子会社を立ち上げるとアプリをリリース。2019年にはモバイルオーダー運用ソリューションを投入し、プラットフォームビジネスにも乗り出した。

モバイルオーダーアプリ

その狙いについて宮野社長は「お客様にリピーターになってもらうためには、タッチポイントを自社で管理することが極めて重要」と話す。タッチポイントの1つであるアプリや、注文システムを自社で作ることで現場の声をシステムに直接反映させやすくなる。

同社のシステムでは、顧客名や注文履歴、来店数などを管理することで、リピート客が来店した際にはスタッフへデータが表示される。それをもとにスタッフは「いつもご来店ありがとうございます」といった声掛けや、好みに合わせたサラダの提案などをする。来店歴や好みを覚えるなどの仕事はテクノロジーに任せ、人はそれより先の顧客との接点を重視する。「売上を伸ばすためのデータ活用ではなく、お客様を喜ばせるためのデータ活用。人を喜ばせた方が、安定的に業績が向上する」と宮野社長。

コロナ禍により「交流」はなくなるか

現状は、新型コロナウイルスの感染拡大で、人とのリアルな交流が難しい状況が続く。同社の重視する接客にも制限が生じているのではないかと思いきや、宮野社長は「オンラインは物理的な制約がない分、可能性は十分」と意欲を見せる。

その“可能性”を支える、2つの新たな取り組みが動き出した。1つは「オンライン接客」。現在テスト的に各店舗で大型ディスプレイを設置し、遠隔地にいるスタッフが来店客への説明やおすすめの紹介などをしている。スタッフも店舗に縛られることなく、どこでも働けるようになり、スキルをより有効に使えるようになる。将来は外国語対応のオンライン接客も視野に入れる。

オンライン接客のためのディスプレイを設置

もう1つは、「自社でのデリバリー」。6月末から一部のリピート客に向けて実証を始めており、今秋には麻布十番に拠点を作り、本格運用をスタートする予定だ。現在、全利用のうちデリバリーが2割を占める。今のところデリバリーは他社サービスを利用しているが、顧客情報を取得、管理できないことがネックになっていた。
 デリバリーであっても顧客とのタッチポイントであることには変わりなく、情報を取得し、顧客体験を向上させる狙いだ。また、外注することで上乗せされてしまう配達料金を減らす意図もある。コロナ禍を経て今後さらにデリバリーのニーズが増えることが予想される。「オンライン・オフライン両方を本業としてやっていく」と宮野社長。

モバイルオーダーのためのソリューション「PLATFORM」はもともと自社運用のみを想定していたが、他社からのオファーが増え、現在は数十社が導入している。コロナ禍以降、テイクアウト利用の増加や店内滞在時間を短縮できることもあり、さらに問い合わせも増えている。しかし、飲食店にとってテクノロジー導入はそう簡単ではない。会社の考え方や組織、従業員一人ひとりの行動が大きく変わらなければ競争力向上につながらない。
 宮野社長は、「これまでテクノロジー導入に抵抗感を持つ企業が多く、コスト削減や効率化を重視していた傾向にあったが、昨年後半ごろから飲食業界の温度感が変わってきた」と分析する。

「熱狂的なファンを作る」という企業ミッションを掲げるクリスプ。今年2月には三菱商事から約5億円の資金を調達。宮野社長は「飲食店の顧客体験をデジタルトランスフォーメーションで進化させる。そこに賛同してもらった」という。テクノロジーによる“飲食イノベーション”はまだ始まったばかりだ。

ニュースイッチオリジナル

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昆梓紗
デジタルメディア局
記者・編集者

「人」に関して、飲食店にはマニュアルがきっちり決められているというイメージがありますが、クリスプでは企業理念と従業員個人の実現したいことをすり合わせ、個々の能力を発揮して働くことを求めているそうです。

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