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AIカフェロボベンチャーを率いる21歳起業家は300年後を夢見る

ニューイノベーションズ、中尾渓人CEOインタビュー
AIカフェロボベンチャーを率いる21歳起業家は300年後を夢見る

ニューイノベーションズの無人コーヒー機と中尾CEO

ニューイノベーションズ(東京都文京区、中尾渓人最高経営責任者〈CEO〉)は、1億7000万円の資金を新たに調達した。同社は人工知能(AI)で需要予測をする無人コーヒー機を開発するスタートアップ。調達した資金はサブスクリプション(定額制)モデルの実装などに投じる。今夏には東京都内の複数のオフィスビル内などで、無人コーヒー機の導入を計画する。

ソフトバンクグループの100%子会社で、AI支援に特化したベンチャーキャピタルのディープコア(東京都文京区)からの追加出資などで、累計2億4000万円の調達となる。

ニューイノベーションズが開発した無人コーヒー機「root C(ルートC)」は、AIで気温や天気、立地、時間、販売データなどを基にコーヒー需要を予測して抽出を始めるのが特徴。ユーザーはアプリを通じて注文と決済ができるため、上質なコーヒーを最大20人が待たずに受け取れる。

3月に実施した三菱地所の新東京ビル(東京都千代田区)での10日間の実証試験では、味の異なる2種類のコーヒーをホット、アイス、普通、濃いめの計8種類から1杯300円(消費税込み)で注文でき、約半数のユーザーが2回以上利用したという。

中尾CEOはロボカップジュニアの世界大会での入賞経験があるなど、長年ロボットを作ってきた。ニューイノベーションズは17歳だった18年に設立した。

日刊工業新聞2020年6月24日

ニューイノベーションズ・中尾CEOインタビュー

中尾渓人CEO

無人コーヒー機「root C(ルートC)」を開発したニューイノベーションズ。率いるのは大阪大学在学中の中尾CEOですが、お話を聞くうちに「学生が起業家になったのではなく、起業家が学生になった」という印象を受けました。聞き手は中尾CEOと同じ年代生まれの3人。年齢が近いことならではの疑問も飛び交いました。(聞き手・熊川京花、鈴木奏絵、伊藤快)

-起業の経緯がとてもユニークだと聞きました。

もともとロボット作りが好きなんですけど、小学校4年生のころからロボカップジュニアの大会に出始め、中学生のときに世界大会で入賞しました。そのころから将来自分は何をしようかと考えていましたが、メーカーの開発職を想像してもどうにもこれだ!とはならなくて、モヤモヤしていました。

ただ、ロボットの大会には出続けたいと思っていたので、その費用を稼ぐために、高校1年生の時から素性を隠してフリーランスのエンジニアとしてクラウドワークスに登録しました。最終的に取引先が300社くらいになったんですよ。受託作業は睡眠時間もほとんどない状況になりました。このままだと過労死するし、これをずっとやりたいと思っているわけではなかったので、高校卒業のタイミングでやめました。

僕は出身が和歌山県で、智弁学園に通っていたんですが、学校のHPがあまりにしょぼかったんで、理事長に直談判して、「作らせてくれ」とお願いしたこともありました。高校の卒業式の1週間後くらいに手がけたので、ある意味卒業制作ですね(笑)。学費分くらいは回収できたと思います(笑)。理事長も学校のいい宣伝になると思ったんじゃないでしょうか。

そのころにご縁ができたベンチャーキャピタル(VC)の方にいろいろと自分の将来について相談していたら、いつの間にか起業することが既成事実化していました。あと、受託で得た売り上げや取引先のことを考えたら、法人格がないと「社会資本市場的に損かもしれない」と考え始め、それも起業を後押ししたと思います。

あと受験勉強が意味が分からないくらいに嫌いすぎて(笑)。智弁学園は結構進学校なんですけど、周りの友人が「医学部を受ける」とか言っているのを聞いて、「あ、このままだとまずいな」と思いました。

高3で捨て身で起業

-まずいというのは?

学歴を取得することに対して、今の社会からのペイバック(見返り)がなくなってきているなと思いました。嫌いな受験勉強を強制されるくらいなら、やりたいことをやった方が自分の市場価値が上がると考えて、高3の夏に捨て身で起業しました(笑)。17歳の時でした。大阪大学の推薦入試の面接で起業したことをアピールしたんですが、落ちたら東京に行こうと決めていました。

-高校生のころからすでにいろいろ経験していますね。

新卒で入社した方とは経験量が違うとは思いますが、社会経験で重要なポイントは押さえられたかなと。高1で受託業務を始めたときは、スキルが全然伴ってなかったんですが、「経験あります!」とか言って案件を受けて、その後死ぬほど怒られたりしました(笑)。でも、その時に世の中の厳しさや当たり前を学ぶことができたかもしれません。自分に能力が足りなかったから相手を怒らせたパターンと、相手がやばい人だったから自分が損害を受けたパターン、というように振り分けが少しずつできるようになってきて(笑)。どう振る舞えばいいかというのはなんとなくつかめていきました。

ルートCについて説明する中尾CEO
-17歳で起業ってすごいですよね。周囲は止めたりしなかったんですか?

そもそも起業という行為自体が過大評価されていると思います。なので、大々的に周りに触れ込むようなことはしませんでした。友達に話しても「そうなんだ」みたいな感じ。逆にニュースで知ったという人もいました。先生の中には本気で止めてくる人もいましたが、合理性を説明していたら途中で諦めてくれました(笑)。

後はひたすら大きくなるしかない

-起業して中尾さんの中で何が変わりましたか?

周りの対応と見える世界が変わったかもしれません。会社があるかないかで結構みんなオドオドするというか、普通かそうでないかに分けられてしまう。ですが、それは組織としての会社という箱の強さだと思っています。起業した本人にその強さがあるわけではないんです。自分は何も成長していないのに、世界が一気に変わるような怖さも感じました。

あと起業するのもやめるのも、事業拡大するのも縮小するのも、自分で決断できるかと思っていましたが、実はそんなことはなくて。資本主義の世の中なので後はひたすら大きくなるしかないんです。無理だったら市場から駆逐されて終わります。そういうことも実感するようになりました。

その点、大企業はコンスタントに成果を出し続けていますよね。だけどそのためには、職階などが良くも悪くも制限されています。そのことに「自由がない」と思うのなら起業すればいい。起業という言葉に流される必要はないと思います。ところで、皆さんは僕と同世代と聞きましたが、周りで起業される人はいないですか?

世の中にフラットな目線、大事

-いませんね。先ほどから中尾さんのお話に圧倒されてばかりです。

全然そんなことはないですよ!いざ自分が起業してみれば「起業するなんてすごいな」という気持ちはゼロになると思います。だけど、世の中全般に対するポジティブなイメージはない方がいいかもしれません(笑)。フラットな目線が大事。

ビジネスなので、法人対法人のバトルとか駆け引きとか、情けも容赦もない合理性でしかないでしょ。「札束の殴り合いになったらどうしよう」とか、怖いですよ(笑)。そこで守ってくれる人は誰もいないし。守ってくれる人を確保するか、自分で自分を守る知識を身に付けるしかない。そういう点では大企業はとても守られているかもしれません。

―ところで影響を受けた起業家の方はいますか?

それが全くいません。人なのでうまくいくこともいかないこともあると思うので、僕は人に対してではなく、「●●さんの何回の定時株主総会のあの発言がすごい」というような、その人が成し遂げた行動に対して尊敬するタイプです。

―行動に対してなんですね。

そうですね。その点、今の自分にスキルがどれくらいあるのかというのは気になります。僕のことを評価してくださっている人が僕のエンジニアのスキルに対してなのか、今の僕の年齢にしてはすごいという程度のビジネススキルについてなのか。だから実際にビジネスをやって、負けるかどうかを判断した方が現実を知ることができていいと思ってます。市場は冷たいからダメな時もわかりやすいだろうと。

その時に、成長の試行錯誤をするパワーを自分たちがまだ持っているならいいんです。そこでつぶれてしまうくらいなら止めた方がいい。僕たちも日々、大小さまざまなトラブルが起きていますが、成長の源泉だと考えて乗り越えています。

ルートCを使用する中尾CEO

無人化の行き着く先に

―今後ニューイノベーションズをどう大きくしていくのでしょうか?

二つあります。一つ目は上場することです。合理性もあるし、それを目標としているから投資をしていただいているというのもあります。

もう一つは、「あらゆる業界を無人化する」というのを会社のビジョンとして掲げていますが、社会の中で必要とされていることを成し遂げて、価値を生んでいる状態を維持したいです。コングロマリット的なことはしつつも、今の自分たちが持っている「リアルビジネス×オンライン」という文脈での強みを生かせるところで、次の成長材料になるものを作っていきたい。10年20年のスパンで必要とされる会社だったら、300年後も1000年後も生き残っていられるのかな、と思っています。

少し逆説的な話になりますが、何か大きなことをやりたいと思った時に「お金や権力、人脈、資産がないからできない」という状態になるのを恐れています。それを避けるために今頑張っているというのもあります。

―今の急速なテクノロジーの発達を見ると、「AIやロボットが人の仕事を奪う」という声も大きくなっています。会社のビジョンとして掲げる「あらゆる業界を無人化する」にはどのような意図があるのでしょうか?

労働者を駆逐するというように誤解されることが多いですが、そうではなくて「ヒューマン トゥ ヒューマン」のコミュニケーションが求められるところにリソースを解放したいと考えています。

これはあくまで僕の個人的な意見ですが、例えば人の代わりに機械が導入されたら、その機械をメンテナンスする仕事が生まれるように、何かが失われたら何かが生まれるはずです。市場なので満たされている人と、満たされていない人という分布は基本的には変わらなくて、その中での移動性が高まるのではないかと考えています。

低付加価値のものが効率化して代替される、というのは歴史的に何度も繰り返されてきました。それを乗り越えたからこそ、社会は豊かになってきたはずです。だから正しい時代のシフトなのではないでしょうか。

中尾 渓人(Keito Nakao)
 1999年和歌山県生まれ。14歳で自律型ロボットによる国際的な研究競技大会『RoboCup Junior』に日本代表として出場し、世界大会入賞。また、智弁和歌山高校在学中にシステム開発事業を開始し、大阪大学入学と同時にNew Innovations(ニューイノベーションズ)を起業。現在は東京を拠点とし、15年以上行ってきたロボット開発の知見を活かして、AIカフェロボット「root C(ルートシー)」を開発。
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