コロナ禍で関心増の「副業」、個人データで“解禁の壁”に風穴開ける

連載・個人データは誰のモノ #03

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新型コロナの影響で在宅勤務が増え、副業に関心を持つ人が増えている

69.1%―。社員による副業を認めていない企業の割合だ。政府は労働力人口の減少などを背景に副業を推進するが、多くの企業はその解禁に二の足を踏む。労働時間の管理が困難になり、社員の長時間労働の助長にもつながるからだ。副業先が競業になり得るリスクも背景にある(※1)。

人材紹介のパーソルキャリアはこうした課題を解消する仕組みの模索を始めた。副業人材を送り出す企業(送出企業)と受け入れる企業(受入企業)が連携し、送出企業が受入企業におけるワーカーの業務内容や労働時間を把握できる「副業マッチングサービス」を実証した。個人のデータを安心安全に預かり、本人関与の下で企業に提供する「情報銀行」の枠組みを活用してワーカーの労働状況を見える化する。

新型コロナウイルスの影響により在宅勤務が増加し、副業に関心を持つ人が増えている。背景には通勤や社内コミュニケーションで消費していた時間を生かしたり、経済環境の悪化による収入減を見込んで副収入を得たりしようという考えがあるという。パーソルキャリアは「アフターコロナ」の働き方を支えるサービスとして実現を目指す。(取材・葭本隆太)

※1 副業解禁に関する企業の意識:リクルートキャリアの「兼業・副業に対する企業の意識調査(2019年)」によると、兼業・副業を禁止している企業は69.1%。同調査(2018年)によると、兼業・副業を禁止している理由は「長時間労働・過重労働を助長する」が44.8%で最多。「労働時間の管理・把握が困難」(37.9%)「情報漏洩のリスクがある」(34.8%)「競業となるリスクがある」(33.0%)が続く。

■労働時間管理の問題を解消する

「本業と副業先の二重雇用契約や労働時間の管理など(副業の促進につながる)新しい仕組みの可能性を検証できた」。パーソルキャリアのデジタルテクノロジー統括部に所属する川里怜エンジニアは、2―3月に富士通や大日本印刷と共同で実証した副業マッチングサービスの手応えを強調する。実証には首都圏に本社を構える7社が参加し、30―40代のエンジニアや企画担当者など6人がサービスを通して実際に約1カ月副業した。

実証ではまず受入企業が業務内容や就業時間などを設定した副業案件を提案する。送出企業はその中から競業相手など自社の社員を送り出したくない案件を取り除く。ワーカーは専用のスマートフォンアプリを通して完成した一覧の中から副業先を選ぶ。関心のある案件についてはオンラインで担当者と質疑応答ができ、採用が決まると副業先と雇用契約を結ぶ。

就業中はワーカーが本業と副業の毎日の就労時間を自らシステムに入力する。このデータを情報銀行に蓄積し、本人の同意の下で双方の企業に提供するというコンセプトだ。(実証では情報銀行の枠組みは使わず、コンセプト検証としてエクセルを使って時間を記録した)

このフローにより「労働時間の管理が困難」や「副業先が競業になり得る」といった副業解禁を阻む課題を解消する。また、時間管理が可能になったことでワーカーと副業先が雇用契約を締結できる点は双方のメリットになる(※2)。

※2 雇用契約と時間管理:労働基準法38条には「労働時間は事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定められており、雇用元は本業と副業の勤務先の労働時間を通算して管理する必要がある。

川里エンジニアは「副業は業務委託契約が一般的。ただ、業務委託は業務を明確に切り出して定義した上でないと依頼できないが、その切り出し作業に負荷がかかる。一方、定義した業務内容が曖昧なままで契約すると(業務を拡大解釈されるなど)個人が不利な立場になり得る」と問題点を指摘する。

実証に参加した社員からは、所属企業が認めた案件一覧から副業先が選べる仕組みを評価する声が上がった。

ただ、事業化に向けて明らかになったハードルも多い。特に仕組みの肝になる時間管理の方法には課題が残る。実証は就労時間の入力についてワーカーが自己申告する形で行ったが、それでは虚偽が発生する懸念がある。企業によって1分刻みか5分刻みかなど管理方法は異なっており、標準化も必要という。川里エンジニアは「自己申告に寄らない時間情報の取得などについて検討していく。挑戦のしがいがある」と力を込める。

パーソルキャリアは今後、参加企業や社員数の規模、期間を拡大した実証を行い、事業化を模索する。同社デジタルテクノロジー統括部の桑原悠シニアエンジニアは「新型コロナウイルスの影響により在宅勤務が増えたことで個人の副業意欲がわいていると聞く。『アフターコロナ』を見越しながら実証実験をブラッシュアップしていきたい」と意気込む。

■情報銀行の未来を見据えた

今回の実証の背景には人材紹介業における情報銀行の活用の可能性を検証する狙いもあった。桑原シニアエンジニアは「情報銀行はデータの主権者は個人という考え方だ。会社が持つ雇用・就労状況などのデータは本来、個人のもの。それらを自ら活用する未来が来たときに、我々が提供できる価値を早くから模索しようと考えた」と説明する。そのケーススタディーが「副業の時間管理」だったというわけだ。

今回実証した副業の仕組みは個人が「就労時間」というデータを本業や副業先に提供することで「二重の雇用契約による副業の機会」というメリットを享受する。さらに将来は、副業先の業務内容や成果のデータも本業に提供することで、副業の実績を踏まえたよりよい労働環境を本業でも得るといったメリットが期待される。桑原シニアエンジニアは「個人が勤務動態など客観性のある自己申告ではない実績データを手元に取り戻し、活用することでその人のキャリアが開けるのではないか」と展望する。

 労働市場においては終身雇用制度は崩壊し、キャリアは企業ではなく個人が自ら築く時代になったと言われる。その道具としてより多くの個人データを自ら生かす時代がくるかもしれない。  
【情報銀行の実証】個人データを本人関与の下で外部企業に仲介する「情報銀行」ビジネスは実証が相次ぐ。実証を主導する企業の多くは、データ提供によって個人が得られる対価の設計がビジネスを軌道に乗せる肝とみて、その在り方を模索する。現状、ポイントやクーポンの提供が多い中で、パーソルキャリアの実証における対価は「よりよい働く環境が得られる」という珍しい試みだ。パーソルキャリアとともに副業マッチングサービスを実証した富士通の担当者は「(情報銀行の普及に向けて、対価の設計は)金銭インセンティブではなく、自分に合っており、納得感が得られるモデルが必要と考えている」と強調する。
【連載・個人データは誰のモノ―情報銀行の可能性―】

個人データを預かり、本人同意の下で企業に仲介する「情報銀行」というビジネスが立ち上がろうとしています。そのビジネスが開く可能性がある未来と、数多くの課題を追いました。新型コロナの脅威においてデータをどう生かすべきかを考えた番外編(#00)も是非お読みください。

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COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局
ニュースイッチ編集長

本文最後でも触れましたが、パーソルキャリアの実証は「就労時間」というデータを企業に提供して「よりよい副業環境」という対価を得る珍しい取り組みです。個人データというと、属性データの次に購買履歴や位置情報などが思い浮かびやすい中で「会社が持つ雇用・就労状況などのデータは本来、個人のもの」という指摘は興味深かったです。

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