参入相次ぐ「信用スコア」、“炎上”の教訓と未来展望

連載・個人データは誰のモノ #05

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信用スコアの利用が広がりつつある。ただ、外部提供に課題は多い

プロフィールやサービス利用履歴など多様なデータを基に個人の信用力を点数化する「信用スコア」の利用が広がりつつある。従来の融資審査に比べて個人を多角的に評価でき、融資の機会を増やせるツールとして活用が進んでおり、スコアを運用する一部企業は、多様な外部サービスへのスコア提供も予定する。シェアリングサービスや宿泊予約をよりよい条件で利用するためのツールなどとして期待される。

一方、外部提供はガバナンス体制の整備を少しでも怠れば顧客の信頼が失われる。奇しくも2019年は機械が人を点数化するシステムに批判が集まる事件が相次いだ。6月にはヤフーが個人に対する説明が不十分なまま「ヤフースコア」を外部企業に提供しようとして批判を浴びた。8月に発覚したリクナビによる内定辞退率の販売問題(※1)はより深刻で、個人情報保護委員会や厚生労働省が行政指導する事態にまで発展した。

信用スコアは「スコアの低い人やスコアを持たない人が不利益を被る恐れがある」として社会に広く浸透していくことに懸念を示す声も多い。信用スコアの適切な運用とは何か、それをどう実現するか。スコアの利用を推進する企業が考えるべきことは多い。(取材・葭本隆太)

※1リクナビ問題:就活情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが就活生のウェブサイト閲覧履歴などを基にAIによって内定辞退率を予測させ、適切な同意を得ずに企業に販売していた問題。学生の内定辞退率を5段階にスコア化した「内定辞退予測」を35社に販売していた。

■融資審査に一石

「より自分を高めたいすべての人が安心して挑戦できる新しい日本をつくる」―。ソフトバンクとみずほ銀行の共同出資会社であるJ.Score(ジェイスコア、東京都港区)がこうしたコンセプトを持ち、国内初の信用スコア「AIスコア」の運用を始めたのは17年9月だ。それから約2年半で「(利用件数は)順調に積み上がり、19年度末時点で120万件を突破した」(担当者)。その間、ヤフーやLINE、NTTドコモなど個人データをたくさん持つ大手通信・IT企業の参入が相次ぎ、注目を集めた。特にLINEは20年1月に登録者数が400万人を突破した。

信用スコアは既存の融資に一石を投じた。「伝統的な金融機関の審査では評価されにくく、借り入れ条件が厳しくなりやすいフリーランスの人なども(多様なデータを基に算出する信用スコアによって)公正に与信できる」(業界関係者)からだ。ジェイスコアやLINE傘下のLINE Credit(ラインクレジット)はスコアを活用して貸付利率や利用限度額を提示する融資サービスを展開する。NTTドコモは金融機関に融資を申し込む同社の顧客を対象にスコアを活用した保証サービスを提供する。

融資におけるスコアの活用は既存の金融機関も歓迎する。新生銀行はドコモの保証に基づく融資サービスを19年8月に始めた。担当者は「(従来の審査基準に加えてスコアを活用することで)今まで貸し出せなかった人に融資できる余地が出てくる。申し込みも順調に来ている」と手応えを強調する。

■外部提供を積極的に模索する

こうした中で、LINEやジェイスコアは次の一手としてスコアの外部提供を積極的に模索する。具体的な提供先は「検討中」とするが、シェアリングは有望分野の一つだ。ラインクレジット事業開発部の川崎龍吾マネージャーは「シェアリングはサービスにおけるレビューの評価が高い人がマッチングしやすく、一見さんはなかなかマッチングできない。スコアがレビューを代替することでそれを円滑にできる」とスコアの価値を強調する。このほか、宿泊施設やレストランの優先予約での活用も想定されるという。

J.Scoreの「AIスコア」の画面イメージ

ただ、外部提供の開始時期については「未定」(川崎マネージャー)と歯切れが悪い。「19年は個人データの利活用についてネガティブな面で注目される機会が多かった。外部提供は社内体制を改めてしっかり整備した後に進もうと考えている」と吐露する。

この「注目される機会」の一つに、ヤフースコアが批判を集めた事例が上げられる。19年6月に発生したヤフースコアの〝炎上〟はスコアは繊細な個人データであり、その取り扱いには特段の配慮が求められることを他の事業者に再認識させるには十分だった。

■ヤフースコア炎上の顛末

「ユーザーになにも伝えていないではないか」―。19年6月5日の朝、個人データ活用に詳しい武蔵大学の庄司昌彦教授は怒っていた。ツイッターのある投稿を見て、ヤフーが「ヤフースコア」の外部提供を始めると知り、そのフローに多くの問題点を見つけたからだ。すぐさま自身のフェイスブックにそれを書き連ねた。

「スコアの算出が初期設定でオンだったにも関わらず、個人が自分のスコアを知る機能(の構築)が後回しになっていた。しかもすでに実証実験でスコアを作っていた中で、外部企業にスコアを提供するという発表だった。ヤフーと個人(が持つ情報量)のバランスの不平等さはまずいと思った。(自分自身を点数化する)信用スコアは少なからず抵抗感を持つ人が想定される中で、ヤフーの振る舞いは非常に行儀が悪いと感じた」(庄司教授)。

こうしたSNS上の識者の指摘をきっかけに批判が集まり、ヤフーは同21日に説明の不十分さを謝罪した上で、サービス内容を詳細に説明するページを開設する事態に追い込まれた。10月には初期設定ではスコアが作成されない仕様に変更した。

武蔵大学の庄司昌彦教授(3月撮影)

ヤフーは当時について「説明に至らない点があった。『個人の情報が勝手に外部に提供される』といった誤解が広まって多大な心配をかけてしまい、大変申し訳なく思っている。スコアが作成されることに対して個人が感じる抵抗感への配慮も足りていなかった」(広報室)と反省の弁を述べる。

■恩恵を受けるのは誰か

ヤフースコアは、決して本人の同意を取らずに外部企業にスコアを提供する仕組みではなかった。ただ、その前段のスコア化は初期設定でオンだったし、すでに実証実験において算出は始まっていた。その中で「事業者にスコアの提供を始める」という発表は配慮にかけた。「スコアが勝手に外部に提供される」という誤解が広まる一因になった。

問題の根本にはスコアを使う主体が個人ではなく、企業であるように受け止められたことがある。企業が優良顧客を開拓する手段と捉えられた。もちろん「使われる」ことで個人も利益を得る。例えば、シェアサイクルにおいて高得点者に特別料金を提供するといった活用が想定されていた。それでもスコアという繊細な個人データの活用には、本人に主導権があると理解される設計が必要だったと言える。

ヤフーは「ヤフースコア」について説明の不十分さを謝罪し、内容を説明するページを公開した(19年6月21日)

ヤフーは「ヤフースコア」の現状について「顧客の声や有識者の指摘、プライバシーに関わる社会情勢を鑑みてサービス設計の見直しを図っている。(個人が)『使いたい』『使ってよかった』と感じるサービスになるよう検討を重ねていく」(広報室)と説明する。

個人起点によるサービス設計は、LINEであれジェイスコアであれ外部提供を判断する際のポイントになる。

■もう一つの重い課題

一方、外部提供は提供先を含めたガバナンス体制の構築も重い課題だ。外部企業における情報の管理体制はもちろん、利用目的の制限についても責任が問われる。例えば、人の移動や就業機会などを制限する用途で使われることは倫理的に許されない。スコア各社には適切な提供先を判断した上で契約で使い方を制限したり、継続的に監視したりする体制が求められる。

さらに、武蔵大の庄司教授は「(仮に信用スコアが社会に浸透していくと)企業が勝手に利用するケースも想定される。(直接的なガバナンスが効かないところで)スコアが一人歩きする懸念にどう対応するか。各社が一緒に考えていくべき問題だろう」と強調する。

ラインクレジットの自社調査によると、外部企業のサービスでも内容次第でスコアを活用したい意向の人は7割にも上るという。武蔵大の庄司教授も「信用スコアに対応した企業のサービスを利用するときに面倒な手続きが省略されたり優先的に利用できたりすれば、消費者にとって利益は大きい」と期待をかける。こうした期待に応えるための盤石な体制作りについて、各社の自問自答は続く。

信用スコアは算出方法の不透明さがあり、社会に広く浸透するとスコアの低い人やスコアを持たない人が不利益を被るといったリスクを懸念する声もあります。そうした観点について、憲法学が専門で個人情報保護に詳しい慶應義塾大学法科大学院の山本龍彦教授に聞きました。是非こちらもお読み下さい。「AIが人を格付けする時代、気鋭の憲法学者が抱く危機と希望」
【連載・個人データは誰のモノ―情報銀行の可能性―】

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COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局
ニュースイッチ編集長

ヤフースコアの炎上はまさに「(本当は個人のものなのに)個人データは誰のモノ(だと思っているのか)」という問題を内包していたように感じます。個人データを扱う際の十分なプライバシー保護とは何かという問題も突きつけました。こうした事象を経た今、外部提供を積極的に模索しているLINEやJスコアなどがどんな形で進めるのか注目されます。

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