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赤字路線を救ったバス会社社長が語る、路線バスの本当の役割

連載・地方創生へスイッチを入れる人たち(2)/イーグルバス・谷島賢社長
 イーグルバス(埼玉県川越市)は赤字を引き継いだ地方の路線バスの経営を改善した実績を持つ。その経験をいかし、路線バス事業の改善モデルを提唱している。谷島賢社長が考えるこれからの路線バスについて役割を聞いた。(葭本隆太)

公共交通は『内外交流』のインフラ


 ―地方では赤字に苦しむ路線バスが多いです。
 そもそも赤字自体を問題視すること自体がナンセンス。(路線バスの赤字は)公共インフラのコストとして自治体が支えるべきだ。ただ、路線バスの維持自体が目的化されてしまうと問題だ。地域の足を維持するのが目的なら、別の方法もあるだろう。我々の改善モデルでは運行状況の“見える化”を通じて運行ダイヤの最適化などに3年間取り組み、結果を見た上で事業を継続するか、撤退を含め大幅な路線再編をするかなどを検討するよう提案している。

 ―路線バスが撤退すると、住民の買い物などの足が失われる懸念があります。
 住民の足は福祉政策として(一定の曜日や時間を決めて運行する)「目的輸送」で対応すべきだ。路線バスという公共交通の役割ではない。公共交通は「内外交流」のインフラ。路線バスが365日朝晩運行するのは、外の人が地域にいつでも来られる体制を整え、街を活性化するためだ。目的輸送と公共交通を混同して議論していては、解決策は見えてこない。

 ―路線バスの運行を維持する上での課題として、運転手不足も顕在化しています。
 もっとも深刻な問題だ。地方では路線バスが撤退する大きな要因になっている。今までは採算が合わないから運行できないという問題を抱えていたが、今では自治体から(採算を合わせる)補助金をもらっても運行できない時代になりつつある。バス会社は利益のある別のバス事業を抑えて、その運転手に路線バスを任せて支えているのが現状だ。公共交通を担う会社としての顔と民間企業としての顔が揺れ動いている。

 ―自動運転はその解決策になりますか。
 可能性は間違いなくある。ただ、完全自動運転バスの運行に到達するには階段を一つずつ上がらないといけない。例えば、事故の責任はどう処理するかといったルール作りなどは課題だろう。一方、短期的には自動運転技術によってバスの運転が軽自動車くらい簡単になることで、運転手不足の解消につながるかもしれない。バスの免許を取りやすくなったり、という面で支えてくれると期待している。

地域と地域を結ぶ


 ―2006年に埼玉県日高市内を走る赤字の生活路線バスを引き継がれましたが、そのきっかけは。
 大手のバス会社が赤字で撤退することになり、地元の方々から引き継いでくれという依頼がきた。大手では難しくても、我々のような中小企業であればなんとかなるのではないかと思い、安易な気持ちで引き継いだ。ただ、生活路線バスと(我々がそれまで運行していた)観光バスは別物だった。観光バスは顧客との相対契約。金額の折り合いがついたところで運行するため、必ず利益を確保できる。一方、路線バスは顧客が何人かわからない上に、365日朝晩の運行が必要だ。運転手や車が休まず稼働する体制をとるためには大きなコストがかかる。とても厳しい事業で、(そのときの判断は)正直参入してしまったという感じだ。

 ―赤字の改善に向けてまず“見える化”に取り組まれました。
 停留所が30-40年間、同じ場所にあることを不思議に思った。それまでの運行会社に理由を聞くと「昔のことだからわからない」と返答があった。意味がある停留所なのかがわからない状況だと知って、データを取ってその意味を探る必要があると考えた。そこでセンサーなどを活用し、利用の少ない停留所やバスの到着の遅れなどを見つけ出し、運行ダイヤの最適化などにつなげた。

              

 ―提唱されている「改善モデル」では需要創出も重要なポイントに挙げています。
 運行ダイヤの最適化といった「改善」で効果を上げ続けるには限界がある。その中で、新たに利用者を創り出す「創客」が大事だと考えている。我々はバスを用いた「交通まちづくり」を推進し、観光客が路線バスを利用する環境を整えた。通勤通学による乗客が少ない平日日中や土日といった時間帯の空白を埋めた。

 ―交通まちづくりとはどのようなものですか。
 (町の中央にハブの停留所を新設し、すべての路線バスがここで乗り換える)「ハブ&スポーク方式」を取り入れた。その上で埼玉県東秩父村(の交通再編)では、ハブ停留所に買い物や観光の施設を集約し、人が集まるようにした。交通まちづくりは路線バスの需要創出になるし、街の活性化にもつながる。ただ、バス会社単独ではできない。自治体との連携が必要だ。特に多様な利害関係者が関わるため、首長の強いリーダーシップが欠かせない。

 ―地域の活性化に向けてバス会社だからこそできることはありますか。
 地域と地域を結ぶことだろう。我々は東京から川越に来る観光客を東秩父村やときがわ町などに回遊させ、経済効果を広域化させた。バス会社は行政区を超えて提携を主導できるはずだ。

               

【略歴】やじま・まさる 成蹊大法卒後、東急観光(現東武トップツアーズ)入社。81年にイーグルバス入社、00年社長就任。11年に関東運輸局選定の初代「地域公共交通マイスター」に選定。筑波大院客員教授。65歳。


連載・地方創生へスイッチを入れる人たち


 人口減少や少子高齢化が進む地方を活性化するには、観光施策の推進のほか、交通や医療のインフラ整備、雇用の確保など、困難な課題に対峙(たいじ)しなければならない。各地域で課題解決に奮闘するキーマンらに話を聞き、地方創生のヒントを模索した。
【01】西日本豪雨被災地のみかん農家 原田亮司さんが取り組む「みんなが潤う地域貢献」(2019年5月2日配信)
【02】赤字路線を救ったバス会社社長が語る、路線バスの本当の役割(2019年5月3日配信)
【03】熱海の地価上昇をけん引した起業家が本当に成し遂げたいこと(2019年5月4日配信)
【04】元IT社長の職員が語る、地方Jクラブの可能性と現実(2019年5月5日配信)
【05】起業支援を続ける男が提言「地方創生は地域の枠にとらわれるな」(2019年5月6日配信)
【06】地方の医療格差は解消へ、その二つの理由(2019年5月7日配信)
日刊工業新聞2019年5月2日記事に加筆
葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
運転手不足が顕在化している現状にとても強い危機感を抱かれていました。自動運転などのテクノロジーが、その課題解決になると同時に、バス運行の安全性を高めるツールになることを期待したいです。

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