経産省若手官僚「なぜ僕たちは空飛ぶクルマに挑むのか」

プロジェクトチーム座談会、他の政策に生かせる部分は大きい

 日本でも「空飛ぶクルマ」の実現が現実味を帯びてきた。関係者らで構成する官民協議会がまとめたロードマップでは、2023年からの事業開始を目標とし、今後さまざまな実証実験を経てビジネスが「離陸」する見通しだ。この「空飛ぶクルマ」プロジェクトを推進してきたのが経済産業省の若手有志。「空」に寄せる思いやこれからの日本について語り合う。前編では組織横断によるプロジェクトとの関わりや、それぞれの問題意識とは-。

未来をどう描く


 製造産業局航空機武器宇宙産業課課長補佐(総括) 海老原史明氏(以下、海老原)
 「空飛ぶクルマ」プロジェクトの根底には、既存の縦割り産業の枠組みだけでは、技術革新や社会の変化に対応できないとの問題意識があります。空飛ぶクルマは、ドローンや航空機の未来であり自動車の未来にも重なります。こうした新産業にまつわる施策はボトムアップ、若手中心で進めるべきと考えました。

 製造産業局総務課課長補佐 牛嶋裕之氏(以下、牛嶋)
 僕は当時、産業機械課ロボット政策室に所属し、飛行ロボットとしてのドローンを担当していました。現時点でのドローンは物流用途での利活用が期待されていますが、いずれ人も輸送する時代が到来する。よって空飛ぶクルマは新たな政策として取り組むべきテーマだと考えました。

 製造産業局航空機武器宇宙産業課係長(※当時) 高橋拓磨(以下、高橋)
 僕も海老原さんと同じく航空機武器宇宙産業課で技術を担当していますが、米ボーイングや欧州エアバスといった海外の航空機メーカーから「アーバンエアビークル」や「フライングタクシー」「パッセンジャードローン」など、さまざまな名称で新たなモビリティーに関するプロジェクトが進むことを知ったことがきっかけです。これはまさに「空飛ぶクルマ」だと。

 製造産業局総務課係長 庄野嘉恒(以下、庄野)
 僕は他の皆さんとやや異なるのですが、省内にすでに発足していたプロジェクトに途中から参画する形で加わりました。これまでの政府の施策は補助金や税制、規制といった手法が中心でしたが、時代の変化とともに政策のあり方も変わっていく。日本が直面する社会課題をイノベーションを通じて解決に導くには、官民が連携して、ともに走りながらともに未来社会を描いていく必要がある。空飛ぶクルマプロジェクトはそうした発想を体現する試みのひとつだと受け止めています。

問われるのは想像力


 牛嶋 ロードマップでは2023年からの事業開始を目標としています。実現に向けて新たな技術や制度が当然必要になってきますが、空飛ぶクルマをどこでどう活用するのか、未来像が具体化されないことには、必要な施策を講じることができません。大前提となるのはビジネスモデルです。よって、今後は官民の対話が一層重要になると考えています。民間のビジネス的な観点と、官側の制度や技術的な官側の視点、これらをすり合わせながら実用化へ近付いていくのではないでしょうか。

 高橋 未来像の具体化という点では、経産省では空飛ぶクルマが実現する日常の一場面を表現した動画を制作しました。動画による発信という政策手法も新たな試みですよね。

 牛嶋 政府がイメージを提唱することには賛否あるかもしれませんが、これまでなかったモビリティーが実現する未来など容易に想像できません。議論のきっかけにはなるんじゃないかな。

 海老原 空の世界の活用は、国民生活に大きな影響を与えうるテーマです。僕らは事業者の方々の声には耳を傾けますが、ややもするとユーザー視点が欠落しがち。誰がどんな用途でどう使うのか-。ユーザーの立場で想像し、実現するには何が必要かをバックキャストしていく姿勢も必要だよね。

 庄野 それはまさに第4次産業革命やスマート社会にも通じる課題だと思います。イメージの打ち出し方は慎重であるべきだと思いますが、まずは国民が実際に将来像を想像できなければ、その先の議論も進まないようにも感じます。
海老原氏(右)と牛嶋氏

ネーミングに込めた「想い」


 高橋 空飛ぶクルマという表現をめぐってもチーム内で議論がありましたよね。僕らが考える定義は「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」です。無人で遠隔操作や自動制御によって飛行できるドローンを乗車可能にしたものを指す場合もあれば、電気自動車をベースにプロペラや自動制御制御システムを備えた場合もあります。

 牛嶋 これでは固すぎる。かといって抽象的すぎるネーミングでは、到底実現しえないものとのイメージを持たれかねない。「空飛ぶクルマ」との表現で、あえて新しいモビリティーだと打ち出すことで、広く議論が喚起されればとの期待もありました。ここへきて言葉の持つイメージはある種、収斂されつつあるように感じます。

 海老原 ネーミングやブランディングを工夫したのは事実ですが、それだけじゃない。「空飛ぶクルマ」には、単にドローンに人が乗っただけにとどまらないインパクトがあります。三次元での移動を日常的かつ安価で環境にも配慮し実現する上で、これまでと全く異なる社会が到来する。まさに非連続的なイノベーションであることを体現するネーミングじゃないかな。

 牛嶋 空飛ぶクルマのもうひとつのインパクトは、空の移動の大衆化です。戦後のモータリゼーションによって社会が大きく変わったのに匹敵する変革が起きる可能性を秘めています。

いかに使ってもらえるか


  大きな潜在需要を秘めた空飛ぶクルマにおいて、日本はどこに技術優位性を見いだせるかといった議論は意味がないと感じています。機体を作って売るだけがビジネスではなない。どんなサービスを通じていかに世の中に使ってもらえるかに目を向けるべきだと思います。

 高橋 僕らにとっても空飛ぶクルマ開発競争に勝つことだけがミッションではありません。制度整備を通じて、「空の移動の大衆化」をどう実現するかという視点も重要になります。

 牛嶋 いち早く機体を開発する、あるいはサービスインする、社会に実装する-。これに尽きるんですよ。日本としての強みは何だろうなどと考えている前に動くべきだと思いますね。

自治体との協力カギ


 庄野 カギを握るのは、自治体との協力だと思います。実証実験のフィールドとしてすでに名乗りを上げている自治体は複数ありますが、渋滞問題の解決や離島や山間地域での新たな移動手段の確保など、目的はさまざまです。地域課題を踏まえ実証を重ねることでユースケースが明確になってくると期待します。

  とりわけ福島県にあるロボットやドローンの研究開発拠点「福島ロボットテストフィルード」には空飛ぶクルマの試験飛行にも必要な設備が揃っています。また、上部と周囲がネットで覆われた飛行場は航空法適用外です。こうした場をぜひ、活用して頂きたいですね。

政策手法も変わっていく


 海老原 空飛ぶクルマは政策立案手法においてもひとつのテストケースだと思うんですよ。外部の専門的な知見を積極的に取り入れることは僕たちがチャレンジする新しい政策立案手法です。この3月から4月にかけて、副業・兼業限定の「週一官僚」としてプロジェクトメンバーを新たに公募したところ1300名を越える応募がありました。

 庄野 僕も空飛ぶクルマプロジェクトは他の政策に生かせる部分は大きいと感じています。

 海老原 そうだよね。世の中の変化に合わせて政策立案手法もどんどん変わっていくべきだし、そのためには社会との双方向の対話が重要になります。僕らには行政経験しかないが、さまざまな分野の専門家は霞が関の外にいる。空飛ぶクルマに象徴される未来社会に影響を与えうるテーマに関心を持っている方も多い。だからこそ転職まではいかなくとも週1回でもその専門性を生かしてもらえないだろうかと新たなメンバーを公募したのです。

 高橋 空飛ぶクルマプロジェクトにおける国交省との連携では、ドローンの政策を経産省と国土交通省が連携して進めてきた経験も活きました。

 海老原 加えて、僕らのチームは組織の枠を越えて関係省庁が協力しやすいよう留意したこともあったよね。若手中心だかこその面もありますが。

 庄野 他省に対する認識って年代によって異なるのかなと感じることがあります。僕ら世代は、他省に攻め込むというよりも、日本を良くするために霞が関でともに汗を流すという意識が強いです。民間との対話の機会が広がり、さまざまな背景を持つ人と未来について議論を重ねることを通じて、霞が関そのものも変わっていくのではないでしょうか。
庄野氏(左)と高橋氏

神崎 明子

神崎 明子
04月19日
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次回は「空飛ぶクルマ」を巡る自治体の取り組みを紹介します。    

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