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西日本豪雨被災地のみかん農家 原田亮司さんが取り組む「みんなが潤う地域貢献」

連載・地方創生へスイッチを入れる人たち(1)/みかん農家・原田亮司さん
 愛媛県宇和島市の玉津地区は、2018年7月の西日本豪雨の被災地。約80ヘクタールの園地の崩壊など、大きな被害が出た。ミカン農家の原田亮司氏は、被災をきっかけに若手農家十数名と起業し、「玉津柑橘倶楽部(かんきつくらぶ)」(愛媛県宇和島市)を立ち上げた。営農やミカン販売などを通し、地域貢献やミカンのブランド向上に取り組む。(文・写真、平川透)

現在も復興の途上

―設立の背景は。

「玉津地区は若い人が多い。200軒ほどの農家のうち、50軒近くに20、30代の若い後継者がいる。ただ、農業問題の例に漏れず、高齢化が深刻だった。何年も前から、若い人たちの間で高齢の農家を助けられないか考えていた。きっかけはやはり西日本豪雨だ。土砂崩れで畑に水をまくスプリンクラーや運搬用のモノレールが流された。修復には国や県の補助が出るが、それでも個人の負担は大きい。そこで現メンバーの1人が復旧支援金をネットで募る『クラウドファンディング』で集めた。支援してくれた975人への返礼を、会社を作り組織としてやろうとなった」

急な傾斜が美味しいみかんを作る。ただ、高齢者にはきつい”職場”だ。

―主な事業内容を教えてください。

「現在、販売と営農が事業の柱。農協から買ったミカンをメンバーが通販やイベントなどで販売する。ジュースなどのオリジナル商品も作る。外部の人からはよく『若い人が勝手に売ってもうけているんじゃないの?』と聞かれるが、農協との関係はきちんと築いた上での事業。メンバーも農家で、みんなが農協に出荷する。それを買って自分たちで売る。会社だけがもうかるのではなく、地域にも還元しながら産地としてのブランドの向上に貢献している」

 

―営農の内容は。

「被災で作付面積の減った農家と、高齢化で農業ができずに土地の余った農家のマッチングなどをしている。アルバイトセンターを設置して農業体験に興味がある人を集め、人手不足の農家に紹介している。試験的だが、苗木を育て農業を再開する農家に売っている。通常、苗木業者から苗を買い、農地で育てる。それだと実るまで3、4年かかる。そこで、我々で苗木を買い、空いた畑で育てておき、少しでも収穫までの期間を短くすることで、農家が軌道に乗れるように手助けしている」

―玉津地区に若い人が集まる理由は。

「ミカンだけで十分な収入を得られるようになったからではないか。数年前からよい値段で取引されるようになった。全国で300万トン生産されていたミカンも現在は80万トンまで落ちた。皮肉なことに高齢化や廃業で農家が減り、生産と消費のバランスが取れ、収入改善につながった。外に出た若者にも話が伝わり、親の畑を継ぐ決意の後押しとなった」

玉津の共選場の中

―収入面以外で農業の人口減少を食い止めるのに重要なことは。

「人を呼んで農業を体験してもらうことだ。『ミカンを作るのは楽しいな』と思ってもらい、移住につなげたい。その地域に住む若者の就職の受け皿を用意することも重要で、大きな目標だ」

【略歴】
はらだ・りょうじ 愛媛県宇和島市生まれ。ミカン農家。18年玉津柑橘倶楽部を設立し、社長に就任。36歳。

玉津柑橘倶楽部のメンバー


連載・地方創生へスイッチを入れる人たち


 人口減少や少子高齢化が進む地方を活性化するには、観光施策の推進のほか、交通や医療のインフラ整備、雇用の確保など、困難な課題に対峙(たいじ)しなければならない。各地域で課題解決に奮闘するキーマンらに話を聞き、地方創生のヒントを模索した。
【01】西日本豪雨被災地のみかん農家 原田亮司さんが取り組む「みんなが潤う地域貢献」(2019年5月2日配信)
【02】赤字路線を救ったバス会社社長が語る、路線バスの本当の役割(2019年5月3日配信)
【03】熱海の地価上昇をけん引した起業家が本当に成し遂げたいこと(2019年5月4日配信)
【04】元IT社長の職員が語る、地方Jクラブの可能性と現実(2019年5月5日配信)
【05】起業支援を続ける男が提言「地方創生は地域の枠にとらわれるな」(2019年5月6日配信)
【06】地方の医療格差は解消へ、その二つの理由(2019年5月7日配信)
日刊工業新聞2019年5月2日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
畑を案内してくれました。本当に傾斜がきつく、「立つのがやっと」ってこういうことなのかと体で実感しました。高齢者じゃなくても大変な労力を伴うでしょう。だから人出も設備もきちんと必要です。でもまだまだ十分ではないそうです。この記事を通して、関心を持つ人や取り組んでみたいという人が増えると嬉しいです。

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