地方の医療格差はテクノロジーで解消へ、その二つの理由
連載・地方創生へスイッチを入れる人たち(6)/医師・奥真也さん
地方の医師不足に代表されるような医療の地域間格差はどう縮めるべきか。新規医療ビジネスに造詣が深い医師の奥真也氏に聞いた。(平川透)
―医療の地域格差をどう捉えていますか。
「格差は解消に向かうはずだ。理由の一つはオンライン診療。情報技術の発達で充実しつつある。各地域にさまざまな分野の専門医がいなくても、大都市圏の専門医が高度な診察や処方を行える。また、政府も基本的には規制を減らす方向で検討している」
「もう一つはオンライン手術の発達だ。施術者が手術室にいなくても遠隔地から操作できるロボットが実用段階だ。高度な技能を持つ医師による手術が場所を問わず受けられる日は近い。住む地域を問わず、レベルの高い医療が提供される。そういう意味では地域格差はなくなる方向に向かうのではないか」
―そうはいっても、高齢化や過疎化によってそもそも医療機関にアクセスが困難な高齢者も増えるのでは。
「普段の健康モニタリングは、生身の医師が診る必要性はない。血圧や心拍数など健康に関する情報は医師でなくても、ウエアラブル端末や家などに付けたセンサーなどで取得できる。血圧や心拍数、呼吸数、体温はもちろん、例えば血中酸素飽和度といった、一部の高度な生体情報も技術的には取得可能だ。そうなると例えば、『このぜんそく患者の呼吸状態は緊急治療が必要かどうか』などを継続的にモニタリングできるようになる」
「また、自動応答する『チャットボット』のような会話ができるシステムを導入すれば、『今日は気分が良い』『ちょっと頭が痛い』といった、言葉による情報を得られる。人工知能(AI)技術を用いれば、会話を進めるうちに隠れた情報を引き出せるのではないか。心拍数などの定量的なデータとチャットボットが得たデータを合わせて分析すれば、人間の医師が診断しなくてもAIが診断や薬の処方をすることも可能だろう」
―最近では平均寿命の伸びとともに健康寿命の重要性もうたわれています。
「どういう状態を指して健康とするかは、人の価値観で変わる。ただ、ずっと病気のことを考えていたり、治療に時間やお金を使い続けるといった状況は、人生を豊かに過ごす意味ではもったいない。できるだけ心身の健康な状態を保つ努力は必要だ」
「人は長生きするようになったし、今後もさらに長生きするようになると思うが、臓器に関しては50年が“耐用年数”の目安だ。例えば腎臓の耐用年数を延ばすには、濃い成分を濾過させないことが効果的。水分を多く取れば、それだけ腎臓の負担を減らすことができる。また、ストレスをため込めば心だけでなく体を物理的に悪くする。こういった基本的な努力をしていれば、医療技術がより発達するこれからの時代に、その恩恵を受けられる側でいられるのではないか」
【略歴】
おく・しんや 東大医卒。英レスター大経営大学院修了。東大医学部准教授、会津大先端情報科学研究センター教授などを経て医療機器メーカー勤務。医学博士。経営学修士。56歳。著書に「Die革命」。
人口減少や少子高齢化が進む地方を活性化するには、観光施策の推進のほか、交通や医療のインフラ整備、雇用の確保など、困難な課題に対峙(たいじ)しなければならない。各地域で課題解決に奮闘するキーマンらに話を聞き、地方創生のヒントを模索した。
【01】西日本豪雨被災地のみかん農家 原田亮司さんが取り組む「みんなが潤う地域貢献」(2019年5月2日配信)
【02】赤字路線を救ったバス会社社長が語る、路線バスの本当の役割(2019年5月3日配信)
【03】熱海の地価上昇をけん引した起業家が本当に成し遂げたいこと(2019年5月4日配信)
【04】元IT企業社長の職員が語る、地方Jクラブの可能性と現実(2019年5月5日配信)
【05】地方で起業支援を続ける男の提言「地域の枠にとらわれるな」(2019年5月6日配信)
【06】地方の医療格差は解消へ、その二つの理由(2019年5月7日配信)
―医療の地域格差をどう捉えていますか。
「格差は解消に向かうはずだ。理由の一つはオンライン診療。情報技術の発達で充実しつつある。各地域にさまざまな分野の専門医がいなくても、大都市圏の専門医が高度な診察や処方を行える。また、政府も基本的には規制を減らす方向で検討している」
「もう一つはオンライン手術の発達だ。施術者が手術室にいなくても遠隔地から操作できるロボットが実用段階だ。高度な技能を持つ医師による手術が場所を問わず受けられる日は近い。住む地域を問わず、レベルの高い医療が提供される。そういう意味では地域格差はなくなる方向に向かうのではないか」
―そうはいっても、高齢化や過疎化によってそもそも医療機関にアクセスが困難な高齢者も増えるのでは。
「普段の健康モニタリングは、生身の医師が診る必要性はない。血圧や心拍数など健康に関する情報は医師でなくても、ウエアラブル端末や家などに付けたセンサーなどで取得できる。血圧や心拍数、呼吸数、体温はもちろん、例えば血中酸素飽和度といった、一部の高度な生体情報も技術的には取得可能だ。そうなると例えば、『このぜんそく患者の呼吸状態は緊急治療が必要かどうか』などを継続的にモニタリングできるようになる」
「また、自動応答する『チャットボット』のような会話ができるシステムを導入すれば、『今日は気分が良い』『ちょっと頭が痛い』といった、言葉による情報を得られる。人工知能(AI)技術を用いれば、会話を進めるうちに隠れた情報を引き出せるのではないか。心拍数などの定量的なデータとチャットボットが得たデータを合わせて分析すれば、人間の医師が診断しなくてもAIが診断や薬の処方をすることも可能だろう」
―最近では平均寿命の伸びとともに健康寿命の重要性もうたわれています。
「どういう状態を指して健康とするかは、人の価値観で変わる。ただ、ずっと病気のことを考えていたり、治療に時間やお金を使い続けるといった状況は、人生を豊かに過ごす意味ではもったいない。できるだけ心身の健康な状態を保つ努力は必要だ」
「人は長生きするようになったし、今後もさらに長生きするようになると思うが、臓器に関しては50年が“耐用年数”の目安だ。例えば腎臓の耐用年数を延ばすには、濃い成分を濾過させないことが効果的。水分を多く取れば、それだけ腎臓の負担を減らすことができる。また、ストレスをため込めば心だけでなく体を物理的に悪くする。こういった基本的な努力をしていれば、医療技術がより発達するこれからの時代に、その恩恵を受けられる側でいられるのではないか」
【略歴】
おく・しんや 東大医卒。英レスター大経営大学院修了。東大医学部准教授、会津大先端情報科学研究センター教授などを経て医療機器メーカー勤務。医学博士。経営学修士。56歳。著書に「Die革命」。
連載・地方創生へスイッチを入れる人たち
人口減少や少子高齢化が進む地方を活性化するには、観光施策の推進のほか、交通や医療のインフラ整備、雇用の確保など、困難な課題に対峙(たいじ)しなければならない。各地域で課題解決に奮闘するキーマンらに話を聞き、地方創生のヒントを模索した。
【01】西日本豪雨被災地のみかん農家 原田亮司さんが取り組む「みんなが潤う地域貢献」(2019年5月2日配信)
【02】赤字路線を救ったバス会社社長が語る、路線バスの本当の役割(2019年5月3日配信)
【03】熱海の地価上昇をけん引した起業家が本当に成し遂げたいこと(2019年5月4日配信)
【04】元IT企業社長の職員が語る、地方Jクラブの可能性と現実(2019年5月5日配信)
【05】地方で起業支援を続ける男の提言「地域の枠にとらわれるな」(2019年5月6日配信)
【06】地方の医療格差は解消へ、その二つの理由(2019年5月7日配信)
日刊工業新聞2019年5月3日