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楽天も危機感、海外勢の脅威でネット旅行販売の勢力図に異変
連載・潜在の旅行ビジネス(2)
大きな一歩を踏み出す決断だった―。JTBは2018年11月、国内宿泊商品のオンライン販売について世界3大オンライン旅行会社(OTA)に数えられる米ブッキング・ドット・コム傘下でホテル予約サイトを運営するシンガポールのアゴダとの“共闘”を決めた。包括的業務提携を基に、アゴダのデジタル技術などを生かして販売サイトを刷新する。
オンライン旅行販売市場は拡大を続けているが、JTBは「オンライン市場の成長に対し、目指すべき水準には追いついていない」(JTBの盛崎宏行執行役員)。オンライン市場は競争が激化しており、その中心には莫大なテクノロジー投資に裏打ちされた使い勝手のよいサイトを運営する海外OTAの台頭がある。JTBはオンライン市場で浮上するには、競合でありながら勢いを増す海外OTAとの連携が最適と判断した。
海外OTAは国内OTAの2強である「楽天トラベル」や「じゃらんnet」も警戒し、対抗策を打つ。海外OTAを軸にオンライン旅行販売市場の勢力図が変わろうとしている。
JTBにとってアゴダはそれまでも知らない仲ではなかった。16年12月に業務提携し、JTBは訪日観光客向けに宿泊コンテンツをアゴダのサイトで販売していた。包括的連携協定ではその関係からさらに一歩踏み込み、国内旅行者向けの販売でも協業する。
アゴダとの関係を強化する背景には、オンライン旅行市場の拡大に対応しきれていないという危機感がある。宿泊の予約手段は今後さらに店頭からオンラインに流れる見通しもあるため、オンライン販売の強化は欠かせなかった。そこでオンライン市場での浮上のカギとして「マーケットイン思考」と「データドリブン」を位置づけ、その実現に向けてデジタル技術に裏打ちされた高いUI・UXの実現が不可欠と考えた。
その中で、すでに提携関係があり、デジタル技術の知見を持つアゴダと関係を強化することが「(目標を)最短距離で実現できる」(盛崎執行役員)と判断した。今後はアゴダの知見を活用して国内宿泊施設販売サイト「るるぶトラベル」などを2019年内に刷新し、成長を目指す。
海外OTAは訪日需要の獲得により、存在感を示してきた。ただ、直近は国内旅行者向けの販売でも台頭している。旅行調査会社であるフォーカスライトJapanの牛場春夫代表は「海外OTAの顧客は訪日客がメーンだろうが、サイトのUI・UXの高さなどから国内旅行者の需要をつかみ始めている」と分析する。同社がまとめた「日本のオンライン旅行市場調査」によると、海外OTAの市場シェアは17年度までの2年間で3%増やし、18%に達した(「楽天トラベル」と「じゃらんnet」はそれぞれ20%)。
実際に世界3大OTAの一つエクスペディアの日本法人、エクスペディア・ジャパンの石井恵三社長は「我々はこれまで、国内旅行は強くなかったが、直近はシェアを伸ばしている」と手ごたえを強調する。
海外OTAの台頭に対し、国内OTAの2強の一角である「楽天トラベル」を運営する楽天は強い危機感をあらわにする。同社の担当者は「海外OTAは規模が大きく価格競争力がある。価格面で国内の利用者が流れている」ともらす。その状況に対し、楽天は1億人以上の会員を持つ楽天経済圏の強みで対抗する。楽天経済圏ではネット通販サイト「楽天市場」などの多様なサービスとポイントでつながっており、サービスの相互利用により楽天トラベルの利用者を増やす考えだ。
経済圏で蓄積した顧客データを活用し、旅行商品の提案制度を高める取り組みも進める。例えば楽天市場でペット商品を購入した人にはペット可の宿泊施設を紹介するといった仕組みを検証している。
訪日需要も積極的に狙う。楽天はサッカースペインリーグ1部のバルセロナのスポンサーになるなどスポーツを通じた世界的なブランディング戦略を進めている。それを生かして7言語11サイトで展開する「楽天トラベル」の世界的な認知度を高める。また、訪日客が使い慣れた海外OTAのようなシンプルなサイトへの刷新に向けて試行を繰り返している。
一方、国内2強のもう一角「じゃらんnet」を運営するリクルートライフスタイルは国内旅行者の新たな需要を創造する戦略により、競争が激化する市場での成長を目指す。1年間で国内宿泊旅行に行った人(国内宿泊旅行実施率)の割合は17年度に55.6%にとどまり、05年度に比べて10%以上減少した。この減少傾向を反転させる刺激策を展開し、自ら創出した需要をつかむ狙いだ。
特に注力するのが若年層の需要開拓。リクルートライフスタイルの宮本賢一郎執行役員は「若いときに楽しい旅行を体験して旅行が趣味習慣になる世界観を作りたい」と意気込む。その目的で14年に始めたサービスが「マジ部」だ。18―22歳までを対象に全国のスキー場のリフト券や日帰り温泉などが何度でも無料で利用できる。同社は2011年に19歳を対象に全国のスキー場のリフトを無料で利用できるサービスを展開した。その結果、「利用者の約9割が翌年度に有料でリピートした」(宮本執行役員)という。「マジ部」はこれをきっかけに誕生した。
マジ部の会員は年々増加し、17年度には119万人を突破した。宮本執行役員は「新たな需要を生み出せているという手ごたえがある」と笑みを浮かべる。
オンライン旅行販売の歴史は古く、「楽天トラベル」や「じゃらんnet」は15年以上の歴史を持つ。インターネットの普及とともに浸透し、宿泊施設の情報などを一覧して簡単に予約できる利便性の高い仕組みにより、店頭予約の代替として市場を拡大させてきた。そして今なお成長する。ただ、競争が激化する市場で、各サイトが成長を続けるには新しい独自の価値の創造が強く求められる。
(文=葭本隆太)
【01】“スポーツの感動で接待”、新ビジネスは日本に根付くか(19年2月18日配信)
【外】ラグビーW杯組織委が本当に作りたい経済レガシー(19年2月18日配信)
【02】楽天も危機感、海外勢の脅威でネット旅行販売の勢力図に異変(19年2月19日配信)
【03】世界最大級の旅行予約サイトが命かける1500億円のテック投資(19年2月20日配信)
【04】ベンチャーの発想が掘り起こす旅行市場の金脈(19年2月21日配信)
【05】町の美容院にも…導入ブーム「変動価格」が抱える真の課題(19年2月22日配信)
オンライン旅行販売市場は拡大を続けているが、JTBは「オンライン市場の成長に対し、目指すべき水準には追いついていない」(JTBの盛崎宏行執行役員)。オンライン市場は競争が激化しており、その中心には莫大なテクノロジー投資に裏打ちされた使い勝手のよいサイトを運営する海外OTAの台頭がある。JTBはオンライン市場で浮上するには、競合でありながら勢いを増す海外OTAとの連携が最適と判断した。
海外OTAは国内OTAの2強である「楽天トラベル」や「じゃらんnet」も警戒し、対抗策を打つ。海外OTAを軸にオンライン旅行販売市場の勢力図が変わろうとしている。
最短距離を実現する
JTBにとってアゴダはそれまでも知らない仲ではなかった。16年12月に業務提携し、JTBは訪日観光客向けに宿泊コンテンツをアゴダのサイトで販売していた。包括的連携協定ではその関係からさらに一歩踏み込み、国内旅行者向けの販売でも協業する。
アゴダとの関係を強化する背景には、オンライン旅行市場の拡大に対応しきれていないという危機感がある。宿泊の予約手段は今後さらに店頭からオンラインに流れる見通しもあるため、オンライン販売の強化は欠かせなかった。そこでオンライン市場での浮上のカギとして「マーケットイン思考」と「データドリブン」を位置づけ、その実現に向けてデジタル技術に裏打ちされた高いUI・UXの実現が不可欠と考えた。
その中で、すでに提携関係があり、デジタル技術の知見を持つアゴダと関係を強化することが「(目標を)最短距離で実現できる」(盛崎執行役員)と判断した。今後はアゴダの知見を活用して国内宿泊施設販売サイト「るるぶトラベル」などを2019年内に刷新し、成長を目指す。
海外OTAは訪日需要の獲得により、存在感を示してきた。ただ、直近は国内旅行者向けの販売でも台頭している。旅行調査会社であるフォーカスライトJapanの牛場春夫代表は「海外OTAの顧客は訪日客がメーンだろうが、サイトのUI・UXの高さなどから国内旅行者の需要をつかみ始めている」と分析する。同社がまとめた「日本のオンライン旅行市場調査」によると、海外OTAの市場シェアは17年度までの2年間で3%増やし、18%に達した(「楽天トラベル」と「じゃらんnet」はそれぞれ20%)。
実際に世界3大OTAの一つエクスペディアの日本法人、エクスペディア・ジャパンの石井恵三社長は「我々はこれまで、国内旅行は強くなかったが、直近はシェアを伸ばしている」と手ごたえを強調する。
ポイント経済圏を生かす
海外OTAの台頭に対し、国内OTAの2強の一角である「楽天トラベル」を運営する楽天は強い危機感をあらわにする。同社の担当者は「海外OTAは規模が大きく価格競争力がある。価格面で国内の利用者が流れている」ともらす。その状況に対し、楽天は1億人以上の会員を持つ楽天経済圏の強みで対抗する。楽天経済圏ではネット通販サイト「楽天市場」などの多様なサービスとポイントでつながっており、サービスの相互利用により楽天トラベルの利用者を増やす考えだ。
経済圏で蓄積した顧客データを活用し、旅行商品の提案制度を高める取り組みも進める。例えば楽天市場でペット商品を購入した人にはペット可の宿泊施設を紹介するといった仕組みを検証している。
訪日需要も積極的に狙う。楽天はサッカースペインリーグ1部のバルセロナのスポンサーになるなどスポーツを通じた世界的なブランディング戦略を進めている。それを生かして7言語11サイトで展開する「楽天トラベル」の世界的な認知度を高める。また、訪日客が使い慣れた海外OTAのようなシンプルなサイトへの刷新に向けて試行を繰り返している。
国内若年層の需要を喚起
一方、国内2強のもう一角「じゃらんnet」を運営するリクルートライフスタイルは国内旅行者の新たな需要を創造する戦略により、競争が激化する市場での成長を目指す。1年間で国内宿泊旅行に行った人(国内宿泊旅行実施率)の割合は17年度に55.6%にとどまり、05年度に比べて10%以上減少した。この減少傾向を反転させる刺激策を展開し、自ら創出した需要をつかむ狙いだ。
特に注力するのが若年層の需要開拓。リクルートライフスタイルの宮本賢一郎執行役員は「若いときに楽しい旅行を体験して旅行が趣味習慣になる世界観を作りたい」と意気込む。その目的で14年に始めたサービスが「マジ部」だ。18―22歳までを対象に全国のスキー場のリフト券や日帰り温泉などが何度でも無料で利用できる。同社は2011年に19歳を対象に全国のスキー場のリフトを無料で利用できるサービスを展開した。その結果、「利用者の約9割が翌年度に有料でリピートした」(宮本執行役員)という。「マジ部」はこれをきっかけに誕生した。
マジ部の会員は年々増加し、17年度には119万人を突破した。宮本執行役員は「新たな需要を生み出せているという手ごたえがある」と笑みを浮かべる。
オンライン旅行販売の歴史は古く、「楽天トラベル」や「じゃらんnet」は15年以上の歴史を持つ。インターネットの普及とともに浸透し、宿泊施設の情報などを一覧して簡単に予約できる利便性の高い仕組みにより、店頭予約の代替として市場を拡大させてきた。そして今なお成長する。ただ、競争が激化する市場で、各サイトが成長を続けるには新しい独自の価値の創造が強く求められる。
(文=葭本隆太)
連載・潜在の旅行ビジネス
【01】“スポーツの感動で接待”、新ビジネスは日本に根付くか(19年2月18日配信)
【外】ラグビーW杯組織委が本当に作りたい経済レガシー(19年2月18日配信)
【02】楽天も危機感、海外勢の脅威でネット旅行販売の勢力図に異変(19年2月19日配信)
【03】世界最大級の旅行予約サイトが命かける1500億円のテック投資(19年2月20日配信)
【04】ベンチャーの発想が掘り起こす旅行市場の金脈(19年2月21日配信)
【05】町の美容院にも…導入ブーム「変動価格」が抱える真の課題(19年2月22日配信)
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