ベンチャーの発想が掘り起こす旅行市場の金脈

連載・潜在の旅行ビジネス(4)

 もはやお手上げだった。旅行ベンチャーのHotspring(東京都渋谷区)が2018年5月22日に提供を始めた旅行プラン提案サービス「ズボラ旅byこころから」はその日、サービスの停止に追い込まれた。提供開始2時間で当初想定を大幅に上回る4000件超のアクセスがあり、システムの管理画面が固まって身動きが取れなくなった。

 ただ、この時、有川鴻哉最高経営責任者(CEO)の胸に浮かんだのは見込みの甘さに対する反省だけではなかった。「旅行したいけど行き先は決まっておらず、相談しながら決めたい需要は確実にある。それをオンライン化できれば価値になる」。大きな反響を得たことで、その仮説は正しく「ズボラ旅」はビジネスになるという確信が生まれていた。
 
 ベンチャーの発想が生み出した新たなサービスが旅行に対する潜在需要を掘り起こそうとしている。若者の旅行離れなどを背景に、縮小傾向にある旅行市場を活性化する起爆剤になるか―。

既存の市場では抜け落ちている


 ズボラ旅は対話アプリケーション「LINE」を活用し、出発地や嗜好、予算などを利用者とチャット形式で対話しながら最適な国内旅行プランを提案する。利用者はその提案が気に入れば宿泊施設や移動手段、現地のアクティビティまで行程を丸ごと予約できる。宿泊施設や旅先での過ごし方などを個人用にカスタマイズできるパッケージ旅行のイメージだ。Hotspringは予約の成立によって受け取る企画設計料などで収益を上げる。

 サービス開発の背景にはオンライン旅行販売市場に対する有川CEOの問題意識があった。「オンライン旅行予約サービスは古い歴史があるが、旅行予約のオンライン化率は35%程度にとどまる。まだ、拾えていない層がある」(有川CEO)。その一つが漠然と旅行に行きたいと思い、具体的な目的地が定まっていない中で街の旅行代理店に相談して決める層だと考えた。既存のオンライン旅行会社(OTA)のサイトでは最初に目的地などを選択して宿泊施設などを探す。この仕組みでは抜き落ちやすいからだ。

Hotspringの有川鴻哉CEO

 サービス開始当日に問い合わせが殺到したことを踏まえ、受付人員の強化や対応フローの改善を行った。その結果、現在は安定して相談に対応しており、これまでに相談数の10―15%が実際に予約した。今後は相談データの蓄積・分析によって提案の質を高めていく。また、今年内に海外旅行に対応できるようにする。有川CEOは「国内旅行以上に海外旅行は旅行先をイメージしにくい人が多い。それこそ『ズボラ旅』が提供する提案型の予約スタイルが合う」と自信を見せる。

性善説を武器にする


 オンライン旅行販売市場は楽天の「楽天トラベル」とリクルートライフスタイルの「じゃらんnet」が2強を占める。直近は海外勢が台頭しており、競争が激化している。そうした市場にベンチャーが正面から挑んでも「価格競争で太刀打ちできない」(旅行ベンチャー)。だからこそ、「ズボラ旅」のように新しい発想でこれまでにない需要を掘り起こすことが事業の成功に欠かせない。

 即時買取アプリ「CASH(キャッシュ)」が話題になったバンク(東京都渋谷区)も新たな旅行需要を狙う一社だ。18年6月に代金あと払い専用の旅行申し込みアプリケーション「TRAVEL Now(トラベルナウ)」の提供を始めた。利用者は名前や年齢、性別、電話番号の入力だけで面倒な審査や手続きはなく2万4500種類の旅行商品に申し込める。代金は申し込みから2ヶ月後までにコンビニで支払えばよい。

「ズボラ旅」と「TRAVEL Now」の画面イメージ

 あと払いを導入した理由についてバンクの岡田麻里マネージャーは「旅行に行くハードルを下げる仕組みにより新たな需要が生み出せると考えた」と説明する。今すぐ旅行に行きたいけれど手元にお金を持たない人の需要を獲得できるほか、申し込み時にお金の情報を入れたり支払ったりすることが旅行に申し込むハードルになると想定し、それを取り払ったUIを展開することで、掴める需要があると考えた。

 もちろん後払いサービスは貸し倒れのリスクがあるが、バンクには性善説に基づくサービスを作りたいという強い思いがある。「(与信をしっかり審査するなど)リスクに備えた仕組みの作り込みによって生じる機会損失もあると思う。我々のサービスはリスクはあるが、それを上回る価値を生む可能性があると信じている」(岡田マネージャー)。

 サービス開始から約8ヶ月。「20―30代を中心に想定以上の反響がある。(貸し倒れ率について)改善の余地はあるが、順調に支払ってもらっている」(岡田マネージャー)状況だ。

市場関係者の関心高い


 オンライン旅行販売市場は拡大が続くものの、旅行市場全体では縮小傾向にある。リクルートライフスタイルの「じゃらん宿泊旅行調査2018」によると、1年間に国内宿泊旅行に行った人の割合は過去10年で8%以上減り、17年度には55.6%になった。旅行市場に詳しい東レ経営研究所の永井知美チーフアナリストは「時間やお金がないなどの理由で若年層などの旅行離れが進んでいる」と指摘する。

 そうした中で、ベンチャーの新たなサービスが市場を活性化する可能性について関係者の期待や関心は高い。旅行調査会社であるフォーカスライトJapanの牛場春夫代表は「旅行市場の縮小は既存の旅行会社が市場を刺激できなかった結果ではないか。(ベンチャーの新たなサービスが)旅行市場を盛り上げる可能性は大いにある」と推測する。

 また、JTBでオンライン販売部門を担当する盛崎宏行執行役員は「(ベンチャーなどによる)新しいサービスの動向はしっかり掴んでいく。仮に大きなムーブメントになると判断したときは提携関係を含めウィンウィンの関係を探りたい」と将来の連携の可能性を示唆する。ベンチャーが停滞する旅行市場を変えようとしている。

バンクの岡田麻里マネージャー

(文=葭本隆太)

連載・潜在の旅行ビジネス


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ニュースイッチオリジナル

葭本 隆太

葭本 隆太
02月21日
この記事のファシリテーター

「ズボラ旅」は、相談開始から予約に至るまで平均で2-3日程度だそうです。チャットで相談しつつ、利用者も自分で色々と考えたり、また家族と相談しながら時間をかけて旅行プランを決めていると見られます。そうした状況も踏まえ、Hotspringは「旅行のプランを決める過程を含めて楽しんで欲しい」と話していました。一方の「トラベルナウ」はとにかく思いついたらすぐ旅行に行ける様に意識したアプリ作りを重視しています。コンセプトは違いますが、この二つのサービスが旅行市場で今後どう活躍するか楽しみです。

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