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世界最大級の旅行予約サイトが命かける1500億円のテック投資
連載・潜在の旅行ビジネス(3)エクスペディア ジャパン・石井恵三社長インタビュー
国内のオンライン旅行販売市場において海外オンライン旅行会社(OTA)の存在感が増している。莫大なテクノロジー投資に裏打ちされた高いUI・UXなどを武器に日本市場に攻勢をかけており、「楽天トラベル」などの国内OTAは危機感を隠さない。海外OTAが運営するサイトのUI・UXは何が優れているのか、そしてなぜ今、日本市場に攻勢をかけているのか。75カ国以上で事業を展開し、2017年度の旅行取扱高はグループ全体で920億ドル(約10兆円)に上った世界3大OTA(※)の一つエクスペディアの日本法人、エクスペディア ジャパンの石井恵三社長に聞いた。
※世界3大オンライン旅行会社(OTA):一般にグローバルに展開する米国発のエクスペディアや欧州発のブッキング・ドットコム、中国のシートリップが上げられる。>
―エクスペディアはテクノロジーに莫大な投資をしていると聞きます。
17年度実績では1年間に約14億ドル(約1500億円)を投資しており、自社で約5500人の開発部隊を持っている。テクノロジー(に裏打ちされたサイトの高いUI・UX)は間違いなく我々の強みだ。
―具体的にはどのような部分に投資しているのですか。
ハードとソフトの両面がある。ハード面では、宿泊施設約200万件と航空会社約550社のフライトを自由に組み合わせられるデータベースを実現する体制を整えている。ソフト面ではモバイル対応や機械学習といった分野に集中投資している。研究開発は(アジア初として17年4月に開設したシンガポールの拠点など3箇所に持つ)「イノベーション・ラボ」が重要な役割を担っている。
―イノベーション・ラボでの研究内容を教えてください。
サイトを利用する人の眼球や顔の筋肉、(スマホやマウスを動かす)手の動きのデータを(試験者の協力を得て)蓄積し、それを基に(顧客獲得に)最適なサイトにする改善点を人工知能(AI)が分析してリポートするシステムが稼動している。例えばiPhone(アイフォーン)は代替わりやiOSの更新によって使い勝手が頻繁に変わる。それに合わせてタイムリーにサイトを改善できる。現在はAIが提示したリポートを基に人がシステム開発を担っているが、将来は開発そのものをAIによってできるようにしたい。
―ラボでの研究を通じたこれまでの改善例は。
典型的な事例では「事前払い」と「事後払い」という文言を「今すぐ支払う」と「ホテルで支払う」に改善してクリック率を大幅に向上させた。また、スマホの利用者はサイトを開くと、上部はじっくり見ずにすぐ下に画面をスクロールするため、上部に配置した重要な情報をスクロールした先のどこにどのような大きさでもう一度用意するかは重要なポイントになる。その細かい違いによって成約率が変わり、売り上げが大きく変わる。その最適化に命をかけている。
―AI技術は他にどのような部分で活躍していますか。
過去の(アクセスや成約などの)情報を分析して未来のアクセスや成約状況などを予測する部分などで利用し、コールセンターの人員配置などに生かしている。
―今後強化したいポイントはありますか。
ナチュラル・ランゲージ・プロセッシング(NLP、自然言語処理)は重視している。我々のサイトは施設やプランの内容について、宿泊施設の運営者が入力した情報を30カ国以上の言語にローカライズして世界中の顧客に発信できるのが強みだ。このため、現在は定型文を選択する形になっている。今後NLPが充実して、施設運営者による自由記述に一定程度、対応できるようになると「アワビ付きプラン」や「忍者体験付きプラン」など(日本独特の)細かいプラン設定を発信でき、宿泊施設と訪日客の双方にとって価値が高まる。
―日本における事業展開の現状はいかがですか。
訪日外国人の需要獲得は非常に好調。国内旅行者(の需要の獲得)については特にアジア各国への海外旅行が急速に伸びている。我々のサイトは航空券と宿泊施設を同時に予約できる。同時予約を行うと料金を割り引くサービスを展開しており、それが効果を発揮している。
―市場関係者からは国内旅行についても御社の台頭を指摘する声を聞きます。
国内旅行はこれまで決して強くはなかった。ただ、国内旅行者の傾向として、日帰りレジャーにおされて近場の温泉などに1泊2日で行く需要が減り、旅行に行くならしっかりと休みをとって遠出する人が増えた。この傾向は航空券を軸にする我々にとって追い風になっている。
―エクスペディアグループにとって日本市場はどのような位置づけですか。
重要マーケットだ。今後相当の額を集中投資する予定。日本では国内旅行だけでなく海外旅行もオンラインで予約する人が増え始めており、その需要を狙う。また、今年のラグビーワールドカップや20年の東京五輪・パラリンピック、23年の大阪万博など大きなイベントが続き、観光需要の拡大が期待されることも(日本に集中投資する)理由の一つだ。
―海外OTAのライバルである米ブッキング・ドットコム傘下でホテル宿泊予約サイトを運営するアゴダが先日、国内宿泊の仕入れ強化などを目的にJTBとの包括的業務提携を発表しました。この動きをどう見ますか。
国内の旅行会社との連携は我々も関心を持っている。特に東京五輪(の開催時期)は日系の大手旅行会社が宿泊在庫をかなり抑えているという情報もある。我々が旅行会社にとってただの集客マシンにならないようなディールを組めるか検討を進めている。
(聞き手・葭本隆太)
【01】“スポーツの感動で接待”、新ビジネスは日本に根付くか(19年2月18日配信)
【外】ラグビーW杯組織委が本当に作りたい経済レガシー(19年2月18日配信)
【02】楽天も危機感、海外勢の脅威でネット旅行販売の勢力図に異変(19年2月19日配信)
【03】世界最大級の旅行予約サイトが命かける1500億円のテック投資(19年2月20日配信)
【04】ベンチャーの発想が掘り起こす旅行市場の金脈(19年2月21日配信)
【05】町の美容院にも…導入ブーム「変動価格」が抱える真の課題(19年2月22日配信)
自社開発部隊は5500人
―エクスペディアはテクノロジーに莫大な投資をしていると聞きます。
17年度実績では1年間に約14億ドル(約1500億円)を投資しており、自社で約5500人の開発部隊を持っている。テクノロジー(に裏打ちされたサイトの高いUI・UX)は間違いなく我々の強みだ。
―具体的にはどのような部分に投資しているのですか。
ハードとソフトの両面がある。ハード面では、宿泊施設約200万件と航空会社約550社のフライトを自由に組み合わせられるデータベースを実現する体制を整えている。ソフト面ではモバイル対応や機械学習といった分野に集中投資している。研究開発は(アジア初として17年4月に開設したシンガポールの拠点など3箇所に持つ)「イノベーション・ラボ」が重要な役割を担っている。
―イノベーション・ラボでの研究内容を教えてください。
サイトを利用する人の眼球や顔の筋肉、(スマホやマウスを動かす)手の動きのデータを(試験者の協力を得て)蓄積し、それを基に(顧客獲得に)最適なサイトにする改善点を人工知能(AI)が分析してリポートするシステムが稼動している。例えばiPhone(アイフォーン)は代替わりやiOSの更新によって使い勝手が頻繁に変わる。それに合わせてタイムリーにサイトを改善できる。現在はAIが提示したリポートを基に人がシステム開発を担っているが、将来は開発そのものをAIによってできるようにしたい。
―ラボでの研究を通じたこれまでの改善例は。
典型的な事例では「事前払い」と「事後払い」という文言を「今すぐ支払う」と「ホテルで支払う」に改善してクリック率を大幅に向上させた。また、スマホの利用者はサイトを開くと、上部はじっくり見ずにすぐ下に画面をスクロールするため、上部に配置した重要な情報をスクロールした先のどこにどのような大きさでもう一度用意するかは重要なポイントになる。その細かい違いによって成約率が変わり、売り上げが大きく変わる。その最適化に命をかけている。
―AI技術は他にどのような部分で活躍していますか。
過去の(アクセスや成約などの)情報を分析して未来のアクセスや成約状況などを予測する部分などで利用し、コールセンターの人員配置などに生かしている。
―今後強化したいポイントはありますか。
ナチュラル・ランゲージ・プロセッシング(NLP、自然言語処理)は重視している。我々のサイトは施設やプランの内容について、宿泊施設の運営者が入力した情報を30カ国以上の言語にローカライズして世界中の顧客に発信できるのが強みだ。このため、現在は定型文を選択する形になっている。今後NLPが充実して、施設運営者による自由記述に一定程度、対応できるようになると「アワビ付きプラン」や「忍者体験付きプラン」など(日本独特の)細かいプラン設定を発信でき、宿泊施設と訪日客の双方にとって価値が高まる。
日本は重要マーケット
―日本における事業展開の現状はいかがですか。
訪日外国人の需要獲得は非常に好調。国内旅行者(の需要の獲得)については特にアジア各国への海外旅行が急速に伸びている。我々のサイトは航空券と宿泊施設を同時に予約できる。同時予約を行うと料金を割り引くサービスを展開しており、それが効果を発揮している。
―市場関係者からは国内旅行についても御社の台頭を指摘する声を聞きます。
国内旅行はこれまで決して強くはなかった。ただ、国内旅行者の傾向として、日帰りレジャーにおされて近場の温泉などに1泊2日で行く需要が減り、旅行に行くならしっかりと休みをとって遠出する人が増えた。この傾向は航空券を軸にする我々にとって追い風になっている。
―エクスペディアグループにとって日本市場はどのような位置づけですか。
重要マーケットだ。今後相当の額を集中投資する予定。日本では国内旅行だけでなく海外旅行もオンラインで予約する人が増え始めており、その需要を狙う。また、今年のラグビーワールドカップや20年の東京五輪・パラリンピック、23年の大阪万博など大きなイベントが続き、観光需要の拡大が期待されることも(日本に集中投資する)理由の一つだ。
―海外OTAのライバルである米ブッキング・ドットコム傘下でホテル宿泊予約サイトを運営するアゴダが先日、国内宿泊の仕入れ強化などを目的にJTBとの包括的業務提携を発表しました。この動きをどう見ますか。
国内の旅行会社との連携は我々も関心を持っている。特に東京五輪(の開催時期)は日系の大手旅行会社が宿泊在庫をかなり抑えているという情報もある。我々が旅行会社にとってただの集客マシンにならないようなディールを組めるか検討を進めている。
(聞き手・葭本隆太)
連載・潜在の旅行ビジネス
【01】“スポーツの感動で接待”、新ビジネスは日本に根付くか(19年2月18日配信)
【外】ラグビーW杯組織委が本当に作りたい経済レガシー(19年2月18日配信)
【02】楽天も危機感、海外勢の脅威でネット旅行販売の勢力図に異変(19年2月19日配信)
【03】世界最大級の旅行予約サイトが命かける1500億円のテック投資(19年2月20日配信)
【04】ベンチャーの発想が掘り起こす旅行市場の金脈(19年2月21日配信)
【05】町の美容院にも…導入ブーム「変動価格」が抱える真の課題(19年2月22日配信)
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