EV「基礎充電」の商機狙う、スタートアップの動きが注目されるワケ
電気自動車(EV)シフトが加速するなか、充電器の不足がEV普及の足かせとなっている。とりわけ、自宅など長時間滞在する場所で行うメーンの充電である「基礎充電」のインフラ整備は喫緊の課題だ。集合住宅への充電器設置には多くの事業者が参入し、無料設置など導入負担を軽減するプランを提案する。自宅に充電器を持たないユーザー向けに近隣の商業施設などに充電器を設置する動きも広まっている。EVの基礎充電サービスで商機を狙うスタートアップ各社の動きを追った。(増田晴香)
集合住宅、設置無料で導入促進
戸建て住宅であれば家主の意思で充電設備を導入できるが、EVを所有しない住民が大半を占める集合住宅への導入は、設置費用の負担などに関して住民の合意形成が難航するケースもある。
そこで、テラモーターズ(東京都港区)やエネチェンジは、集合住宅に実質無料で充電器を設置するプランなどを用意し、導入を促している。設置台数を拡大し、充電利用料金で収益を得るビジネスモデルだ。
テラモーターズはこれまで既設マンションへの充電器の無償設置を進めてきたが、このほど新設マンションへの設置提案も開始した。
東京都が2025年度から新築マンションへの充電器設置の義務化を検討するなど、自治体も本腰を入れる。ただ新築マンションの場合、EV充電インフラの導入に自治体の補助金を使おうとしても、申請から工事完了まで時間がかかり、実際には補助金利用が難しいケースも多いという。そこで、テラモーターズは補助金未活用でも新築マンションに充電器を無料設置できるプランを開始した。
同社はもともと海外を中心にEV2輪・3輪の開発を手がけてきた。徳重徹会長は「当社はハードウエアの開発力が強み。高機能を保ちつつ可能な限りシンプルにし、コストを抑えている」と明かす。テラモーターズが展開する充電器は安価なEV用コンセントに独自のIoT(モノのインターネット)技術を組み合わせ、低コスト化。また、マンションの新築時に躯体(くたい)の建設と併せて工事することで費用を圧縮し、無料設置を実現した。
エネチェンジは宿泊施設、ゴルフ場、商業施設など長時間滞在する目的地を導入対象とした「目的地充電」を軸足に置いてきたが、11月にマンション向け充電サービスにも参入した。田中喜之執行役員は「マンション充電は市場規模が大きいことや、EVユーザーの困りごとに応えるためにも設置対象を拡大した」と背景を語る。
既設マンションの共有部に充電器を設置するなどの条件をクリアした場合、設置費用や月額費用に加えて電気代も還元し、マンションの費用負担が「オールゼロ」となるプランも用意する。電気代も同社の負担となるため利益率は低くなるが、基礎充電を整備することで目的地充電の有料サービスまで含め顧客を囲い込み、収益を確保する戦略を描く。
長時間を前提とする基礎充電では3キロワット出力の普通充電器が一般的だが、エネチェンジは倍速の6キロワット出力タイプもマンション向け機種の標準仕様とした。充電時間の短縮が図れるほか、輸入EVをはじめ今後もEVバッテリーの大容量化が進み、今後は6キロワット出力が主力となっていくとの考えだ。
商業施設に充電器、「自宅代わり」提案
「自宅で充電できない“充電難民”の課題を解決する」―。プラゴ(東京都品川区)の大川直樹社長は、都市部の商業施設を中心に充電器の導入を進める戦略を示した。同社が実施した調査によると、東京都内のEVユーザーの4割以上が自宅での基礎充電ができていないという。集合住宅はもとより、戸建てでも敷地内の充電器の設置が不可能な場合やコスト面のハードルがある。
プラゴは自宅の充電設備の有無にかかわらず、EVユーザーが日常で利用できる充電ステーションの整備を目指しサービスを開始した。12月に商業施設「ルミネ立川」(東京都立川市)など首都圏の4施設に充電器を導入し、順次拡大する。
サービスの目玉は事前予約機能。専用のアプリケーションから空き状況の確認や予約ができる。「行ってみたらすでに他の車が使っていて充電できない」ようなケースを避け、自宅外での確実な基礎充電を可能にする。
4キロワット出力の普通充電器のほか、50キロワット出力の急速充電器はスーパーやコンビニなど滞在時間が短い場所への設置を想定。23年春には6キロワット出力の壁掛け型普通充電器も市場投入する。3種類のラインアップを強みに「施設の利用場面やニーズに応じて提案する」(大川社長)。
30年15万基―政府目標、新興の機動力カギに
富士経済(東京都中央区)がまとめた国内のEV・プラグインハイブリッド車(PHV)向け充電インフラ普及動向調査によると、普通充電器は21年に2万9685基、急速充電器は8105基が設置されている。政府は30年までに普通充電器12万基、急速充電器3万基を設置する目標を掲げ、充電インフラ導入補助金を設定し後押しする。
充電設備の不足がEV購入の懸念点となっている一方、EV普及が進まなければ事業者は投資対効果が見込めない。日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会の集計によると、22年度上期(4―9月)の乗用車販売に占めるEVの割合は1・9%で、普及率は依然として低い。ただ台数自体は3万300台で前年同期比3倍と大幅に増え、勢いは増している。
経済産業省の23年度当初予算案では、充電・充てんインフラ導入促進補助金(100億円)などを含むクリーンエネルギー自動車(CEV)関連で22年度比2割増の300億円を計上した。
EV充電器商戦で注目されるのが、「意志決定の早さが武器」(エネチェンジの田中執行役員)というスタートアップの動きだ。エネチェンジは27年までに300億円を投じて国内で3万基の充電器を整備する計画。22年6月から導入支援キャンペーンを開始し、すでに1500基を受注している。テラモーターズは同4月から既設マンションを中心とした無償EV充電インフラ導入を開始し、すでに約380棟から受注を獲得。新築マンションも含めて提案を加速し、22年度末までに1000棟の受注を目指す。EV市場の成長を追い風に、いかに機動力を発揮できるかがカギとなりそうだ。