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新たな日本のロケットとして確立した「H3」、今後の打ち上げ計画は?

H3ロケット徹底解剖 #10
新たな日本のロケットとして確立した「H3」、今後の打ち上げ計画は?

今後H3で打ち上げる宇宙機(一部JAXA提供)

輸送担い宇宙開発に貢献

宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した大型基幹ロケット「H3」試験機2号機の打ち上げ成功を機に、3号機から本格運用に移った。試験機2号機では1号機の失敗を受けてダミーの大型衛星を搭載したが、3号機では地球観測衛星「だいち4号」を載せて打ち上げ、目的の軌道に届けた。新たな日本のロケットとして確立したH3は、国内外の宇宙輸送を担う手段として宇宙開発の促進に貢献する。

2024年度は、H3試験機2号機と3号機、4号機をすでに打ち上げ、25年2月1日に24年度最後の打ち上げとなる5号機を飛ばす。4号機は地球からの高度3万6000キロメートルにある静止軌道に衛星を投入することにH3で初めて成功し、5号機でも同様の静止軌道への衛星投入を目指す。5号機では政府の準天頂衛星「みちびき」6号を運ぶ。内閣府のみちびき責任者の三上建治室長は「打ち上げの時をずっと待っていた。今後のみちびきによるサービス向上のためにも成功してほしい」と期待する。

H3は当初20年に初号機を打ち上げる予定だったが開発の遅れで後ろ倒しになったのに加え、初号機の失敗で輸送計画がずれ込んでいた。みちびきはH3での輸送が開発時から決まっていたため、待ちに待った打ち上げの時が迫っている。25年にはみちびき5号機と7号機の打ち上げも続き、早期の7機体制構築を急ぐ。

9日には、政府が国の宇宙開発計画実施方針を示した「宇宙基本計画工程表」の改訂案をまとめ、25年度にはH3が4機打ち上がる予定であることが分かった。年度初めにメーンエンジン3機のみで構成する「3―0形態」が姿をあらわし、日本初の補助ロケットがない大型基幹ロケットでの輸送を実証する。打ち上げまでに射点で3基のメーンエンジンを吹かす試験などを行う予定で、万全の状態で3―0形態を飛ばず。

年度半ばには、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ無人補給船「こうのとり」の後継機「HTV―X」1号機を運ぶ。この時にはメーンエンジン2基と補助ロケット4機で構成する形態がH3で初めて登場する。衛星を搭載する先端を覆うフェアリングは、HTV―X専用のスイス製の幅広のワイドタイプを使う。フェアリングを製作するビヨンド・グラビティーのサム・イノザー博士は「フェアリングはすでに完成して保管してある。あとは日本に運ぶだけだ」という。

将来的に、H3は米主導の「アルテミス計画」にも貢献する。HTV―Xは、ゆくゆくは月周回有人拠点「ゲートウェー」への物資供給も担う方針で、月に向けてHTV―Xを運ぶ時もH3を使う。また26年度には日本がインドと共同開発した月の極域を目指す探査機「LUPEX」や、火星の衛星を探査する「MMX」もH3で打ち上げる。JAXAの川勝康弘MMXプロジェクトマネージャは「MMXは機体が大きく、H3でないと運べない。H3あってのMMXだ」と強調する。

日刊工業新聞 2024年12月12日

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「H3ロケット」徹底解剖
「H3ロケット」徹底解剖
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した新型の大型基幹ロケット「H3」の運用が本格化した。開発開始から約10年が経過する中で安心・安全で従来よりも安価なロケットを目指し、運用しながら開発も進めて技術を進化させている。カギとなる技術や打ち上げ延期・失敗を乗り越えて得られた今のカタチ、H3の目指すところなどを取り上げる。

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