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高度情報人材育成を加速、文科省の支援事業が明らかにした文系大学の現在地

高度情報人材育成を加速、文科省の支援事業が明らかにした文系大学の現在地

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文部科学省はデジタル・グリーン分野の理工農系学部・学科などを増やす「大学・高専機能強化支援事業」の2回目選定を行った。高度情報専門人材の育成は、ハイレベル枠の京都大学を含め、当初想定を上回る38件を選んだ。公私立大学の再編支援は要件を満たした59件。初めて理工農系を設置した大学が約半分に上り、文系大学の生き残りをかけた動きにも映る。3回目は文科省事業「DXハイスクール」で採択された高校との連動など、新たな動きが期待されそうだ。(編集委員・山本佳世子)

支援2に選定された大学・高専の一覧

大学・高専機能強化支援事業は「支援1」と「支援2」からなる。大学院を中心とした高度かつ情報に絞った支援2は、国公私立大・高等専門学校すべてが対象で38件を選んだ。特に高専は半導体産業で盛り上がる熊本県や北海道の3高専を含め11件と、初年度の5件と比べて倍以上だ。

支援2は当初、「3年間で60件」としていたが、2023年7月公表の初回51件と合わせ、すでに大きく上回る。文科省は、優れた取り組みであれば、3回目も引き続き支援する方針だ。

ハイレベル枠は初回に7件だったが、今回は京大のみだ。京大は材料、デバイス、量子など現実世界の研究開発に、データサイエンスなど情報世界の技術を適用する多角的人材を育成する。そのために大学院の情報学研究科、工学研究科と学部学科の定員を増やす。

一方、支援1は公私立大が学部再編などで理工農系へ転換するのを促すもの。定員充足率などの要件を満たせば助成対象となる。今回は59件で、67件だった初回以上に地方、小規模、女子大などに広がっている。分野はデジタルが9割弱で、環境、食や農、健康などとの掛け合わせも目立つ。理工農系を初めて設置したケースが約半分だ。1年目は3割だったことから、1件10数億円という同事業の支援により、「完全私立文系大学が、理工農系学部に生き残りの活路を見いだしている」(文科省高等教育局専門教育課)様子が明らかになった。新設学部などは大学設置・学校法人審議会の審査が必要で、「今の量的拡大に対し、質をきちんと見ていく」(同)段階が、各大学の次の課題となる。

具体例として、モノづくりの新潟県燕三条地域で、開設間もない三条市立大学は地域産業界と連携した実学重視のグリーン・デジタルの学科を、既設の工学部内に新設する。東海大学は人間・情報共創社会を担うための大学院情報理工学専攻を設置。情報理工学部からの女子学生進学率3割以上を目指す。また龍谷大学は理工系と農学系の学部を持つことを土台に、情報学部と環境サステナビリティ学部を新設する。

3回目見込みの25年度は、高校で情報Iが必修となった第1世代が大学に入学してくる。文科省は今春、情報・数学などに力を入れ、情報技術活用の学びを強化する「高等学校DX加速化推進事業」(DXハイスクール)で全国1010校を採択した。そのため情報IIの学びや農業高校のDXなどに取り組む先進的な高校と、支援1の地域の大学の高大連携の推進も期待される。

新学部・学科の設立ラッシュで教員不足が課題だが、「クロスアポイントメント制度」で企業人が大学教員を兼ねる事例が出ているほか、複数大学で教員を“共有”する「基幹教員制度」活用も有望だ。将来は支援2の大学院を出た人材が、支援1の大学の教員になるケースも考えられそうだ。

日刊工業新聞 2024年7月11日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
支援2の枠は当初、3年間で60件とされており、初回選定51件に対して「残り9件?それは大変だ」と思っていました。ですが結局、この数にはこだわらないとのことで、今回は38件が選ばれ、3回目もありとのアナウンスになりました。これは通常の単年度予算ではなく、基金事業のため、長期視点で融通させることが可能だということのようです。そうならば、今回はうまく動けなかった大学も次回(次年度、といわないのも単年度の事業でないためでしょう)に向けて、策を練って参りましょう!

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