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高齢化やなり手不足…酪農家の生き残りを先導する搾乳ロボットの効果と悩み

高齢化やなり手不足…酪農家の生き残りを先導する搾乳ロボットの効果と悩み

搾乳中(新潟県三条市=9月30日)

新潟県農業総合研究所畜産研究センター(新潟県三条市)は、餌が乳牛に与える影響の研究などに搾乳ロボットを活用している。飼養管理効率化と乳牛の健康維持のため、ロボットは24時間フル稼働。乳の量や出る時間といった個体別の膨大なデータなどを分析に役立てる。研究成果は搾乳ロボットを導入した県内酪農家にも共有する。高齢化やなり手不足に伴い中堅規模の酪農家が生き残りを模索する中、最先端技術で先導する。(新潟・渋谷拓海)

畜産研究センターでは、スマート酪農を推進する一環で2020年から搾乳ロボットを導入・活用している。アニマルウェルフェア(動物福祉)を意識して設計した広々とした牛舎の一角に、独GEA製のロボット一式を設置した。 

牛舎内を歩き回る牛が搾乳ロボットのハウジング内に入ると、その先には自動給餌器があり、いつもの干し草と異なる配合の餌が出る。同センターの島津是之酪農肉牛科長は「胸に張りを感じた牛が、おいしい餌を食べているうちに搾乳してしまう仕組み」と説明する。

牛の乳房から乳を出すのはミルカーと呼ばれる搾乳機。搾乳ロボットはカメラの画像と人工知能(AI)により自動で正確に位置決めする。島津科長は「何度も腰を曲げてミルカーを装着する動作がなくなり、作業者の肉体的負担が激減した」という。

乳牛は出産後、白黒斑のホルスタインなら1日当たり約30リットルを超える乳が出る。特に最近は改良が進んだため乳量が多いという。そこで同センターでは適切なタイミングで搾乳できるよう、搾乳ロボットは24時間稼働にしている。

乳牛の首や足にはセンサーを取り付け個体別に管理する(新潟県三条市=9月30日)

1頭当たりの搾乳は朝晩2回が基本だが、生育状態に合わせ回数を調整することもある。乳牛の首や足にはセンサーを取り付け、搾乳量・時間を個別に記録。自動開閉の柵と連携し、搾乳後すぐに再侵入できないようにするなど、適正管理につなげている。

搾乳のロボット化で確保できる詳細なデータは研究で役立つ。酪農肉牛科の宮腰雄一専門研究員は「どの餌がどのように搾乳に影響するのかなど、細かく分かる」と評価する。成果は搾乳ロボットを導入中の県内中堅酪農家と共有することもあるという。

「もう昔のやり方に戻りたくない」という声は多いが、悩みもある。例えば牛がミルカー部分を蹴ると、位置決めがうまくいかないなどで深夜でも警告メールが飛んでくる。宮腰専門研究員は「搾乳できないと調子が悪くなる個体もいる。夜も休日も関係ない機械メンテナンスという新しい仕事ができた」と話す。大きな故障は専門業者を呼ぶが、普段は「いざという時の当番を決めておく」(同)などして運用中だ。

管理効率化を図りながら、新しい研究に挑戦する基盤を整えた。現在は他の都道府県の研究機関とメタンガス計測装置を交換し合い、乳牛のげっぷに含まれる温室効果ガスを削減するための研究にも取り組んでいる。

日刊工業新聞 2022年11月08日

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