家畜からの温室ガス排出を削減へ。農研機構が挑む技術開発の全容

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2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現を目指す日本。その影響は畜産業にも及ぶ。農林水産省によれば、19年の日本の農林水産分野における温室効果ガス排出量は二酸化炭素(CO2)換算で約4747万トン。国内の全排出量の約4%を占める。このうち、家畜関連が約3割を占めており、持続可能な家畜の生産体制の構築に向けた技術開発が進む。(山谷逸平)

農業・食品産業技術総合研究機構は、農水省の委託プロジェクトで、17年度から一酸化二窒素(N2O)やメタン(CH4)といった温室効果ガスの排出量削減に向けて革新的な技術開発に取り組む。「畜産分野における気候変動緩和技術の開発」がテーマ。最終年度である21年度の達成目標について、「(畜産農家)1経営体からの温室効果ガスの排出量を20%削減可能な技術開発」を掲げる。

具体的にはN2Oの排出削減に向け、家畜のふん尿やその処理過程に着目した技術開発を進める。豚や食肉用のブロイラーに必要以上のたんぱく質を与えると、ふん尿中に排せつされる窒素が増え、処理過程でN2Oが増量する。

そこで生産性を損なわずに、N2Oの排出量を低減するアミノ酸バランスの改善飼料を開発した。反すう家畜の牛にも適用できる特殊なアミノ酸を含むバランス改善飼料も開発し、N2Oの排出量を15%以上削減することに成功した。

排せつ物の浄化処理では、炭素繊維を使う生物膜法を開発した。微生物を炭素繊維に付着しやすくしてN2Oの排出を抑制し無害な窒素ガス(N2)にして排出する。養豚汚水浄化処理施設での実証試験でN2Oの排出量を約8割削減した。

スマート畜産施設グループの荻野暁史上級研究員は「製造法の改善によるコスト低減が今後の課題」とする。

一方、メタンの排出量削減では、牛の消化管内で発生したメタンの削減に向けた技術開発に取り組む。メタンは牛が飼料を食べると胃で発生し、げっぷとして排出される。育種現場で使えるメタン産生測定システムを開発し、メタンの排出量には個体差があることを明らかにした。

これを受け、畜産農家に普及できるように、低メタン産生牛の育種改良に向けて研究開発をさらに進める。乳牛精密栄養管理グループの野中最子グループ長は、「低メタン牛育種は畜産農家にとって直接的な負担がない」と利点を強調する。

メタン排出削減の取り組みの一部は、政府が進める大型支援事業「ムーンショット型研究開発制度」を活用した研究に引き継がれた。牛の胃の中の微生物を制御し、30年までに牛からのメタン産生を25%削減する目標を掲げている。

17年度からの取り組みについて、研究を総括する三森真琴研究推進部長は「当初の目標は達成できる見通し」とした上で、「将来、環境に配慮した畜産物が市場に出回った時に消費者がどう評価するか」が課題と指摘する。技術が早期に普及するためには、それを受け入れる社会の“器”づくりも必要となる。

日刊工業新聞2021年10月18日

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