「全固体電池」実用化へ、課題克服する材料開発の現在地
高い安定性を備えた酸化物系全固体電池は次世代電池の有力候補の一つ。ファインセラミックスセンター(JFCC)は酸化物の固体電解質材料としてチタン酸ランタンリチウム(LLTO)に着目。原子配列が揃っているLLTO単結晶を使い、従来よりも室温で約4倍、低温で約10倍のリチウムイオン伝導度を得ることに成功した。酸化物系全固体電池の実用化に向けた課題を克服する材料開発への貢献に期待が高まる。(名古屋・鈴木俊彦)
全固体電池の材料開発では、リチウムイオン伝導に優れた硫化物系の固体電解質の研究が進んでいる。一方で、より安全で、安定した酸化物系の固体電解質ではリチウムイオン伝導が十分でないことが課題だ。
全固体電池の実現ではリチウムイオンが流れやすい原子の並び方を明らかにし、電池材料の開発に取り入れることがカギになる。JFCCが着目したLLTOは「1990年代にイオン伝導性の良さが報告されていた」(小林俊介ナノ構造研究所電池材料解析グループ)という。酸化物系固体電解質の中でもリチウムイオン伝導性が優れている材料だ。
リチウムイオンは1ナノメートル(ナノは10億分の1)以下の隙間を動く。一般的なLLTO(多結晶)は原子の並び(配列)が10ナノ―50ナノメートルの間隔で変化している。原子の並びが変わる場所ではリチウムイオンの流れが悪くなってしまうため、伝導性の測定には原子の配列が揃っているLLTO単結晶を用いた。
単結晶は原子の並びが変化する間隔が、LLTO多結晶と比べて100倍以上に広くなる。リチウムイオンが流れやすい場所を測定するのに適しており、原子の並びとイオン伝導の関係を知る手がかりとなる。
測定に用いるLLTO単結晶は厚さ20マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下の薄さを目指したため、極細針状のマイクロプローブを使った新たな測定手法を構築。JFCCで蓄積してきた電子顕微鏡観察技術を駆使し、リチウムイオン伝導度を計測した。
測定では同13マイクロメートルまで薄くしたLLTO単結晶でリチウムイオンの動きを調べたところ、LLTO多結晶に比べて、室温では約4倍、低温では約10倍と高い伝導度を確認した。また、活性化エネルギーは室温付近で0・216電子ボルト(eV)と非常に小さく、リチウムイオンが動きやすいことを示した。
これらの結果は、現在までに最もリチウムイオン伝導度がよいとされる硫化物系の固体電解質に匹敵する。「これまでに考えられていた以上に動きやすいことを初めて実験で確かめることができた。理論計算に近づいた」(同)と評価する。
さらに、試料に電子線を照射する電子線後方散乱回折法(EBSD)で原子の並びの方向を調べると、理想とされる方向から約20度傾いていたことがわかった。最適な結晶の向きがわかれば、さらに高いリチウムイオン伝導度が得られる可能性がある。今後もリチウムイオンが最も動きやすい原子の並びについて測定を続け、知見を蓄えていく。
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