レーザー核融合に歴史的成果、実用化に向けた研究が加速

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米ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)の国立点火施設(NIF)の内部(Lawrence Livermore National Laboratory提供)

高強度のレーザーを一点に集め、核融合反応を起こす「レーザー核融合」の研究が大きな転機を迎えた。米国の研究所が昨夏行った実験で、核融合反応で最初に起きる「点火」に至ったからだ。レーザー核融合ではこの点火部からそれらを取り囲む燃料部に反応を連鎖させて莫大エネルギーを生み出す。今回の成果は米学術誌に掲載され、研究者たちの間で話題を呼んでいる。商用化にはまだ遠いが、実現への期待が着実に高まってきている。

核融合反応:軽い原子核同士をプラズマ状態で融合し、重い原子核を作る反応。核融合発電はこの反応が起こる際に失われる質量をエネルギーにして、発電する。核融合は大分すると二種類ある。磁場閉じ込め方式と慣性方式だ。磁場閉じ込め方式は、コイルで作った強力な磁場のかごでプラズマを浮かせて核融合反応を起こす。対して、慣性方式は瞬間的に高温かつ高密度を作りだして核融合反応を実現する。レーザー核融合は慣性方式に分類され、高強度のレーザーで核融合反応を発生させる。瞬間的に高密度のプラズマを作る関係上、磁場閉じ込め方式より装置が小型で済む。

レーザー核融合における偉業

掲載されたのは、米国カリフォルニア州にあるローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)が国立点火施設(NIF)で、2021年8月にサッカー場ほどの広さの設備で行った実験だ。重水素と三重水素でできた球状の燃料を内包した、「ホーラム」と呼ばれる金属製の筒に192本のレーザーを一斉に打ち込んだ。レーザーはホーラム内でX線に変換され、直径約2ミリメートルの燃料に当たりエネルギーが生じて点火に達した。具体的には、打ち込んだレーザーのエネルギーである1.9メガジュールの70%にあたる1.35メガジュールのエネルギーが生じた。

ホーラムのイメージ。中央に位置するのが燃料で両サイドからレーザーを照射する(Lawrence Livermore National Laboratory提供)

論文によると、反応により燃料から失われたエネルギーよりも、反応で生じたヘリウム4による加熱エネルギーの方が多かったことから点火に達した。想定される商用核融合炉では、反応で生じる中性子は「ブランケット」という部品に回収されるが、ヘリウムは燃料内にとどまる。このときとどまるヘリウムは燃料の加熱に寄与し、核融合反応で最初に起きる点火部からそれを取り囲む燃料部へ反応が連鎖していくことで、莫大なエネルギーを生み出す。

今回の結果について大阪大学レーザー科学研究所の兒玉了祐所長は「長年、燃料やレーザーなどの改良を積み重ねた結果だ。(レーザー核融合でも)点火や燃焼ができる目処がたった歴史的成果」と話し、「今後は燃料の最適化やレーザーの強度を上げる研究が中心になるだろう」と予想する。

日本では阪大が研究

高速点火方式のイメージ(大阪大学レーザー科学研究所提供)

核融合レーザーの研究をめぐる日本の動きはどうか。阪大は燃料を圧縮した後、レーザーで追加加熱する「高速点火方式」を研究する。NIFの「中心点火方式」に比べ、より小さい強度のレーザーで核融合を起こすことができ、10倍の効率が期待できるという。阪大はLLNLと研究協定を結び、高出力を一定時間繰り返し発振できるレーザーを重点的に開発する。商用炉では、レーザーによって1秒間に10回ほどの核融合反応を起こす必要がある。阪大はそれを実現するため、1秒間に100回繰り返し照射できるレーザーの開発を進める。兒玉所長は「繰り返しレーザーは実用化に必ず必要だ。世界でも取り組んでいるところが少ない時に主要な技術を押さえたい」と意図を説明する。

企業も開発を加速させている。阪大と光産業創成大学院大学の研究者が立ち上げたスタートアップ、エクスフュージョン(大阪府吹田市)はレーザーの制御技術を開発中で、2年後までの開発完了を目指す。数ミリメートルの核融合燃料に、レーザーを繰り返し照射し続けるレーザー核融合において、レーザー制御は商用炉のコア技術になる。同社の松尾一輝最高経営責任者(CEO)は「レーザー制御技術は加工や半導体製造など、応用範囲が広い。核融合以外の利用も狙える」と説明する。

次世代原子力発電との協力模索

ただ、核融合の社会実装は21世紀中葉とされる。発電を実証する原型炉に向けては、レーザー本体や反応で出る熱を取り出すブランケット、炉設計などの開発が不可欠だ。ただ、松尾CEOも開発の必要性を強調しながら、「1社のスタートアップで全てをカバーできる範囲ではない」と話す。特に装置が小型で済むレーザー核融合は炉設計の自由度が高い。

そこで狙うのは次世代原子力発電との協力だ。念頭にあるのは、水素製造に優れた「高温ガス炉」や廃棄物処理が比較的簡単な「溶融塩炉」などだ。これらの水素製造技術や熱取り出し技術をレーザー核融合と組み合わせることが考えられる。次世代原子力発電から核融合へのスムーズな移行や発電以外の利用用途がメリットに挙げられる。実際、阪大も50年までにレーザー核融合を使い、水素製造を実用化したい考えだ。また水素製造の熱源に利用すれば、発電よりも低いエネルギー利得で社会実装できる可能性もある。

NIFのレーザーベイ(Lawrence Livermore National Laboratory提供)

国では国際プロジェクトである「国際熱核融合実験炉(イーター)」で採用される、磁場閉じ込め方式のトカマク型の原型炉建設構想が進む。実用化には磁場閉じ込め方式を意識した議論が中心だ。磁場閉じ込め方式、慣性方式のどちらも、実用化には多額の資金が必要なことには変わらない。一方で、兒玉所長はレーザー核融合の意義についてこう強調する。「エネルギーは国の安全保障そのもの。国際プロジェクトのイーターだけでなく、自国の技術的優位性を担保することは重要ではないか」。

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ニュースイッチオリジナル

COMMENT

小林健人
デジタルメディア局DX編集部
記者

レーザー核融合の優位性は小型でも成立し、発電出力の調整に向いている点です。装置が小型で済めば、建造納期やコスト面に優れます。出力調整ができれば、既存の発電システムとの共存も容易になります。一方でレーザーは軍事技術の側面もあり、米国では科学技術の開発に軍事予算を使うことも多いです。レーザー核融合の大きな課題は資金にあるでしょう。

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核融合

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