夢のエネルギー「核融合」研究を推進。世界最大の実験炉が稼働

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量研機構那珂研究所で秋にも稼働する核融合実験装置「JT-60SA」

夢のエネルギー「核融合発電=用語参照」の実用化に向けた研究が大きな節目を迎える。今秋にも量子科学技術研究開発機構(量研機構)が、世界最大の核融合実験装置「JT―60SA(SA)」を稼働する。フランスで建設中の「国際熱核融合実験炉(イーター)」を使った国際プロジェクトを補完し、人材育成を促進する役割なども期待される。海外でも核融合発電をめぐる研究開発が加速しており、関連の部品ビジネスにも商機が広がってきた。(小林健人)

核融合発電

重水素と三重水素の原子核をプラズマでぶつけて核融合反応を起こし、生じた熱を使い発電する。発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない次世代エネルギーと期待される。1億度Cのプラズマを維持し続け、持続的に核融合反応を起こす。ウラン235の連続反応でエネルギーを生み出す原子力発電と異なり、核融合発電はプラズマを維持できなければ、反応が止まるため安全性が高いとされる。70年代に主要な理論が出そろい、その後、国内外で実用化に向けた研究が行われている。

人材育成促進の役割期待

「昔から核融合発電は『実用化まであと30年、あと30年』と言われ続けてきた。それだけにSAやイーターの建造は、(実用化が)現実味を帯びてきたという意味で感慨深い」。東芝エネルギーシステムズ(川崎市幸区)の大勢持光一シニアエキスパートは、これまでの苦労を振り返る。

量研機構は那珂研究所(茨城県那珂市)に日本と欧州が参画するSAを建造し、早ければ秋に稼働する。真空容器を収める「クライオスタット」のサイズは、高さ約15メートル50センチ、直径約13メートル40センチ。イーターが完成するまでは、世界最大の核融合発電の実験装置になる。

核融合発電設備で、特に重要なのがプラズマを制御するコイルだ。イーターやSAではビームやマイクロ波で炉を温めプラズマを作る。そのプラズマは、コイルで生み出す「磁場のかご」で浮かせ続ける。万が一、1億度Cにもなるプラズマが核融合炉内の真空容器に接触すると、機器が破損するためだ。

(左から)早川エキスパートと大勢持シニアエキスパート

プラズマを制御し続けるのは難しく、それぞれの部品に要求される品質は厳しい。7枚のコイルを積層して作る「トロイダル磁場コイル」は「イーターに納入したものは、1枚当たり1ミリメートル以内の誤差に収めないといけない」(大勢持シニアエキスパート)など、製造の難易度は高い。真空容器の溶接にも「ミリ単位の調整が必要だった」と東芝エネルギーシステムズの早川敦郎エキスパートは話す。SAはこれまで培ったノウハウの結晶だ。

SAの目的はイーターではできない実験を行うことだ。イーターの工学設計は、20年以上前の2001年に確定した。「イーターには最新の知見は盛り込まれていない。それをSAが補完する」と那珂研究所の池田佳隆所長は説明する。例えば、核融合反応の効率アップを狙いプラズマの密度を高めるための研究などを行っていく計画だ。

プラズマを加熱するためのビーム入射装置

並行して量研機構の六ヶ所村研究所六ヶ所地区(青森県六ケ所村)では高温に耐えうる材料の研究が進む。SAの稼働は人材育成の貴重な機会でもある。池田所長は「日本と欧州から若い研究者が那珂研究所を中心に集結し、核融合研究を前に進めてくれることを期待する」と話す。

民間、30年代商用化へ

日本、欧州、米国、ロシア、中国、インド、韓国が協力する国際プロジェクトであるイーター。25年にプラズマを発生・維持する実験のための運転を開始し、35年には核反応を起こす燃焼実験のための運転を開始する予定。SAはそれに協力する。その先にあるのは発電実証を行う「原型炉」の運用だ。日本政府は50年をめどに原型炉の運転を目標に掲げる。

諸外国の動きは活発だ。英国は40年ごろに核融合発電所を建設する計画。米国は核融合研究を加速するための10年計画を策定すると発表した。民間企業を巻き込み、商業化を目指す。

21年の民間投資は約3400億円以上に上り、スタートアップへの投資も進む。米コモンウェルス・フュージョン・システムズ、米TAEテクノロジーズはそれぞれ約1000億円以上の資金調達に成功した。

民間企業では30年代の商用化を目指す動きがある。カナダのジェネラル・フュージョンは英国原子力公社(UKAEA)と実証用プラント建設に合意。25年の運転開始を予定し、商用化を急ぐ。

関連ビジネスの商機も広がっている。京都大学発スタートアップの京都フュージョニアリング(東京都千代田区)は、熱を取り出し電力を生み出す部品に特化して事業展開する。部品の性能を試す模擬プラントの建設を予定し、商用化に向けた需要を捉えようとしている。すでに「(海外のスタートアップからの)引き合いが強まってきている」と長尾昂代表は話す。

部品に関しては、日本がイーターやSAで培った知見を最も生かせる分野。池田所長は「日本の強みは研究から開発、製造までを一貫して行える点だ」と強調する。

長期研究に国の支援必要

国内で着実な進化をみせる核融合発電だが課題もある。一つは安全規制という指針が定まっていないことだ。英国は安全規制の方向性を示し、民間による研究開発の健全な活発化を促す。一方、日本は方向性も出ておらず、長尾代表は「民間では中性子の伴う実験炉や商用炉の建設計画は立てづらい」と話す。ヘリカル型と呼ばれる核融合炉の商用化を目指す、ヘリカルフュージョン(東京都千代田区)の田口昂哉代表も「海外での実証を検討に入れる必要もある」と国内に安全規制というガイドがないことの不自由さを訴える。同社は自然科学研究機構核融合科学研究所の研究者が中心になり、立ち上げたスタートアップ。現在は熱を取り出す部品などの開発を進める。40年ごろに10万キロワット級の核融合炉での発電開始を目指す。

また資金などの問題をクリアしながら、どのように研究開発を長期にわたり継続していくかも重要テーマだ。EX―Fusion(エクスフュージョン、大阪府吹田市)の松尾一輝最高経営責任者(CEO)は「核融合で培った技術を他の分野に応用することも考えないといけない」と強調する。同社が開発するレーザー核融合は、レーザー光を照射し、重水素と三重水素の燃料を加熱することで核融合反応を起こす。同研究で培った知見を半導体製造などに応用し「時間のかかる核融合への足がかりを作っていく」(松尾CEO)としている。

大和合金が開発する特殊金属

特殊金属を製造する大和合金(東京都板橋区)の萩野源次郎社長も「核融合の先は長い。技術を他の分野へ応用する」と展望する。東芝エネルギーシステムズは核融合関連の業務がない時期は、超電導や加速器、原子力発電事業に人材を振り向け知見を維持してきた。

ただ足の長い研究開発を民間の努力だけで継続することには限界がある。核融合発電の実現には民間の創意工夫を後押しする国の支援も必要だ。

《三菱重工、原型炉を見据える》

核融合発電の実用化に向けた研究開発が活発になる中、その中核をなすイーター計画に複雑な思いを持つ研究者がいる。約30年間、核融合研究に携わる三菱重工業の原子力セグメント核融合推進室の井上雅彦室長だ。「日本にイーターのような巨大な装置のレガシーが残らないのは残念だ」と吐露する。気持ちの裏には「日本が核融合分野を引っ張ってきた」という自負があるからだ。

日本がイーター向けに調達する主な機器(量研機構提供)

三菱重工はイーターに納入したトロイダル磁場コイルのインボードと呼ばれる部分、全19基の製造を担当した。同部分の精度は約10メートルに対し、交差1ミリメートルの高精度を求められる。井上室長は「巨大かつ精度の高さが求められるイーター向けの部品は作り出したら後戻りはできない」と製造の難しさを口にする。

核融合反応で生じるヘリウムや未燃焼の燃料を取り出す部品「ダイバータ」では世界に先駆けて高熱付加試験に合格。1000度C以上にもなる高温環境に耐えられる性能に加え、異材を接合する技術の確立が必要な部品だ。同社は90年代からモックアップ(模型)を作り、実現にこぎつけた。

井上室長の目線は原型炉を見据える。「原型炉にはイーターとは異なる難しさがある。それでも核融合は原子炉の一種。だからこそ我々が培ってきたプラント技術が生きる」。念頭にあるのは、燃料である三重水素を製造する燃料サイクルシステムや核融合炉と発電部分を統合するインテグレーションだ。同社がこれまで原子力事業で培ってきた知見を活用する。部品製造においても、「イーターの設計完了以降の知見を活用すれば、もう少し精度の部分も甘くできるのではないか」と商用化に向けたコストダウンも見据える。イーターで採用された現地の製造建屋で部品を作るノウハウ獲得も視野に入れる。そのため他の革新炉開発や国外の原子力発電向けに部品交換を通じて、人材やノウハウを維持していく予定だ。その先に捉えるのは「夢のエネルギー」核融合の実現だ。

日刊工業新聞2022年7月15日記事に追記

COMMENT

小林健人
デジタルメディア局DX編集部
記者

実際に那珂研究所に行き、SAを見学しました。SAでもイーターの半分、原型炉になればさらに大きくなる予定です。核融合は中々実現しない様から「逃げ水」とも言われてきました。ただイーターに加え、スタートアップの登場が実用化を加速させそうです。一方で商用化の道筋には技術的ブレイクスルーが必要です。その点について各社の動きが注目です。

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