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「全力で、実直に向き合う」、西日本鉄道会長の経営哲学

「一生懸命に全力を尽くし、立ち向かう」

経営に臨む姿勢であり、部下を持つようになった時から抱き続ける仕事に対する信念でもある。シンプルな表現に、自身にも部下にも実直に向き合う思いを込める。経営判断でもその姿勢を崩さない。難しい判断の決め手は「熱意」だ。

「決断に迷う時は担当者の声を聞く。市場や事業性を調査し、客観的事実を積み重ねた上で、企画者の熱意がなければ成功しない。担当者が熱意を持てるだけの検証を繰り返していれば、自信を持って説明できるはずだ」

ただ、「前に進むだけが決断ではない」とする背景には、コロナ禍による人流の激減などで運輸業を中心に大きな打撃を受けたことがある。約8年となった社長在任の終盤には多くの厳しい決断を下すことになった。祖業で中核の運輸業を守るため、自らリニューアルを手がけた遊園地の閉園など聖域なき構造改革に踏み切った。「最後に厳しい決断が来た」と振り返る。

地域に根付き成長してきた西日本鉄道で、都市開発を中心に携わり、数多くの街づくりを担当。特に汗をかいた、自社の本拠地である福岡市・天神の街づくりは市主導の大規模再開発事業「天神ビッグバン」へ進化した。本社のあった「福ビル街区」をはじめ西鉄の存在感は大きい。社長として定めた企業メッセージ「まちに、夢を描こう。」にもつながり、地域との共生や協働を通じて活力を生み出してきた。

「地域と同じ夢を持つことができた。プロジェクト完了時には、『アジアの福岡』というレベルになる。その夢に向かっていく。自身の夢でもある」

他方、西鉄は国内屈指の国際物流事業者でもある。社長として海外の主要拠点を訪れ、日本からの出向者や現地採用者とも意思疎通を繰り返した。

「できうる限り現場の声を聞き、見る。習慣的にコミュニケーションを取り、気持ちを伝え合うことが大事だ。リモート技術は進んだが、形は分かっても色や温度が伝わらない。肌で感じられるように現場で見る」

現場主義は若手時代に担当した経理部門で芽生えた。本社でのデスクワークが主で、机上で済む作業も多かった。だが積極的に外に出て鉄道や軌道(路面電車)の現場で除却資産を確認するなど現物に触れた。「本社でじっとしているのが嫌だったのかも」と笑うが、グループの全容を肌でつかんだ経験が経営に生きている。(西部・三苫能徳)


【略歴】くらとみ・すみお 78年(昭53)青山学院大法卒、同年西日本鉄道入社。03年流通レジャー事業部長、07年執行役員、08年取締役執行役員、11年同常務執行役員、13年社長。21年より会長、九州経済連合会会長。福岡県出身、68歳。
日刊工業新聞2022年3月29日

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