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順天堂大と日本IBMが実現へ、「バーチャル病院」が担う役割

アバター訪問、治療を疑似体験
順天堂大と日本IBMが実現へ、「バーチャル病院」が担う役割

バーチャルホスピタルのイメージ

実物の病院をオンライン空間で模した「バーチャルホスピタル」の登場間近か―。順天堂大学と日本IBMは、3次元(3D)のオンライン仮想空間「メタバース」を用いた医療サービス構築に向けて共同研究を始める。順天堂大内に「メディカル・メタバース共同研究講座」を設置し、“時間と距離を超えた”新たな医療サービスに取り組む。バーチャルホスピタルを起点にした新サービスが注目される。(編集委員・斉藤実)

メタバースは、現実世界とは異なる3次元の仮想空間であり、利用者は「アバター」と呼ぶ、自らの分身となるキャラクターやアイコンを操り、その目線でサイバー世界に入り込んで仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を体感しながら他の人と交流できる。

サイバー空間とリアル世界との融合・相互作用の進展とともに、適用領域が広がりつつある。医療業界においては、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、臨床現場でオンライン診療の活用が広がる一方で、VRやARの活用に向けた研究が進んでいる。

こうした背景を踏まえ、今回は短期と中長期にテーマを分けて取り組む。短期テーマではメタバース空間での「順天堂バーチャルホスピタル」の構築や、患者や家族が来院前にバーチャルで病院を体験できる環境作りなどを検討する。

利用者はアバターとなってバーチャルホスピタルを訪問し、空間内を自由に探索して、医療従事者や患者、家族などと交流できるようにする。また、外出が困難な入院患者が病院の外の仮想空間で家族や友人と交流できる「コミュニティー広場」を構想する。

バーチャルホスピタルでは、説明が複雑になりがちな治療を疑似体験することによって、治療に対する患者の理解を深めたり、不安や心配を軽減できるかの検証も予定する。

一方、中長期テーマについてはメタバースでの活動を通じて、メンタルヘルスなどの疾患の改善が図れるのかを学術的に検証する計画。

今後は、臨床現場でのオンライン診療やVR・ARの活用に加えて、メタバースの応用が進む見通し。まずは短期実施テーマに関する試作品を年内に発表する考えだ。

順天堂大学の服部信孝医学部長・研究科長は「共同研究の成果をメタバースによる新たな医療サービスとして社会実装し、社会に還元していく」と意義を語った。日本IBMの金子達哉ヘルスケア事業担当執行役員は「デジタルテクノロジーが人の温かみを届けられる世界を順天堂医院と共同で構築し、一人一人の健康に役立つプラットフォームサービスの提供を目指す」と述べた。

日刊工業新聞 2022年4月14日

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