【ディープテックを追え】難病・網膜色素変性症を「注射」で治療を目指す
目の網膜にある細胞が遺伝子異常によって機能しなくなる、網膜色素変性症。暗い場所で物が見えにくくなることから始まり、徐々に視野が狭くなる病だ。
治療法として人工網膜などを使い、人の視力を補完する研究が進む。レストアビジョン(東京都港区)は注射のみで治療する薬の開発に挑む。
有効な治療法がない難病
網膜色素変性症は日本の視覚障害原因で緑内障に次いで多い。有効な治療法がない指定難病だ。光を神経情報に変換する視細胞が変性することで、視覚情報を脳へ伝えることができなくなる。また、さまざまな遺伝子が発症に関与するため原因をピンポイントで除去することが難しい。
米国では光に対応した電気信号を流し、視細胞の代わりにする「人工網膜」が医療機器の承認を受けている。iPS細胞などで治療する研究も進む。レストアビジョンは「アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター」という技術の治療薬を開発する。
AAVベクターの仕組み
仕組みはこうだ。病気を起こさないAAVベクターに欠損した特定の遺伝子を組み込み、変性前の細胞に感染させることで遺伝子異常を補う。
網膜色素変性症では視細胞は変性してしまうが、脳へ視覚情報を伝達する介在神経細胞は残る。この細胞に同社独自の光を感じるたんぱく質「ロドプシン」の遺伝子を組み込んだAAVベクターを感染させ、光受容の機能を持たせることで治療する。開発する薬で健常者と同等の視力に戻すことは難しいが、堅田侑作最高経営責任者(CEO)は「夜間の歩行ができるようにしたい」と話す。
治療イメージ
競合としては人工網膜や再生治療がある。同社は注射のみで治療できる非侵襲を強みがある。大がかりな手術を必要とする人工網膜などを比べて、患者の負担が少ないとされる。
ロドプシンにも特色
ロドプシンには動物型と微生物型の2種類がある。動物型は光を強く感じ取ることができるが、光センサー分子であるレチナールを供給する必要がある。一方、微生物型は光の感じ方が動物型よりも弱いが、レチナールの供給を必要としない。同社の使うロドプシンは、この動物型と微生物型のメリットを組合せた「キメラ」だ。光の感度が高く、レチナールの供給を必要としない。キメラロドプシンを組み込んだAAVベクターの治療薬を、目に注射して半永久的に効果が持続することを目指す。すでに動物実験では効果が出ており、今後は人の臨床データを集め製品化につなげる。2023年には臨床試験をする考えだ。
22年2月にはベンチャーキャピタル(VC)から3億円の資金調達を行った。慶応義塾大学と採択された日本医療研究開発機構(AMED)の補助金と合わせて、6億円の資金で開発を行う。日本で約3万人、世界では150万人ほどの患者数が想定される網膜色素変性症。堅田CEOは「患者を救うため、いち早く製品を出すことにこだわりたい」と力を込める。
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