【ディープテックを追え】ワイヤレス給電、実用化迫る。京大発スタートアップは「高電力」に照準

#64 スペースパワーテクノロジーズ

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電波で機器を充電するワイヤレス給電の実用段階に近づいてきた。IoT機器の増加に伴い、2025年の国内の市場規模が5520億円になるとされる。京都大学発スタートアップのスペースパワーテクノロジーズ(京都市西京区)は高電力のワイヤレス給電を強みに産業向けへ狙いを定める。

マイクロ波を使う利点

ワイヤレス給電は複数の方式がある。最も普及するのは電磁誘導方式。送信側と受信側の間で生じる電磁結束を利用した給電方式だ。だが伝送距離が短く、少しでも対象物の位置がずれると給電効率が落ちてしまう。

【30秒で分かる「ワイヤレス給電」】

電波であるマイクロ波を使う方式であれば送電距離を伸ばしながら、受信側の位置ずれを気にしなくてよくなる。これまでは実験でしか利用できなかったが、国は実用化に向けて動きはじめた。総務省は電波を使って屋内の離れた場所に無線で給電できるようルールを見直す方針を発表。22年前半に関連省令などを改正し、マイクロ波を使った給電に3帯域を割り当てる予定。まずは屋内での利用できるようにする。各社が展開するのは920メガ(メガは100万)ヘルツの製品が多い。給電できる電力が少ないため、センサーなど省電力でも稼働する製品が対象だ。

高電力に照準

送信側の機器(同社提供)

スペースパワーテクノロジーズは、5・7ギガヘルツ(ギガは10億)向けに製品を開発。古川実最高経営責任者(CEO)は「産業向けで数ミリワットの給電では用途が限られる。高電力分野を狙う」と話す。

受電アンテナ素子(写真は9つの素子を集めたもの)

5・7ギガヘルツ帯のメリットは高電力の給電を行える点だ。同社によれば1メートルの距離であれば、1つの受電アンテナ素子で2ワットの給電ができるという。電力は電波のパワーによって決まるため、給電効率を高めるために機器を工夫する。受電機器には電波を直流電力に変換するレクテナを使う。マイクロ波の強さにもよるが、70%以上の変換効率を実現した。

また電力をマイクロ波に変換する送信側のアンテナも工夫する。従来は四つ使用していたアンテナを、一つに集約。回路の数を減らすことでコストを下げる。古川CEOは「1000円当たりのワット数が、ここ2年で3~4倍ほど効率が高まってきた」と説明する。

物流倉庫での使用を計画

古川CEO

先んじて、物流倉庫で使うデジタルピッキングでワイヤレス給電を行う計画だ。同製品はB-STORM(東京都調布市)と共同開発した。デジタルピッキングは紙のリストなどを使わずに済み、生産性の向上が見込める。ただ電子棚の全てに配線を張り巡らせることは難しく、電池で電気を供給している。そのため電池交換は数百個という単位で必要になる。同社はワイヤレス給電で電池交換を不要にして、この課題を解決する。人が業務をしない時間帯に電子棚を給電することで、安全性に配慮する。そのほかセンサーをマシニングセンタに取り付け、予知保全にいかすことも想定する。

画像認識で動く対象物を認識して給電する

今後の規制緩和を見据えて、24ギガヘルツでの給電も技術開発する。人への安全性を担保するため、送電側に画像認識の機能を付ける。人を感知することで、人体にマイクロ波が当たること避ける。

25年の国際博覧会(大阪・関西万博)では、飛行ロボット(ドローン)に送信機を取り付け、マイクロ波でスマートフォンなどを充電する構想。将来的には「街中のありとあらゆるIoT機器を充電できるように機器を設置したい」(古川CEO)と展望する。

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COMMENT

小林健人
デジタルメディア局DX編集部
記者

総務省はワイヤレス給電の実用化に向けたルールの見直しを発表しました。今回は屋内かつ3帯域の限定的なものになりそうですが、世界に先駆けて、規制緩和したことは非常に大きな意味を持ちます。米オシアなど競合企業もありますが、実際の場面から得られるフィードバックほど重要なものはありません。電波は帯域ごとに特徴が異なりますので、今後使える帯域の選択肢が増えることで利用シーンも増えるかと思います。

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