九州大が開発「薬を見つける道標」になるスゴいAI
がん・感染症などに対応
九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授らの研究グループは、病気の原因となるたんぱく質のアミノ酸配列から、治療薬候補の化合物を見つけ出す人工知能(AI)システムを開発した。がんや感染症、生活習慣病などさまざまな病気に対応し、薬の開発スピードの加速が期待される。薬を見つける道しるべになってほしいと「ライトハウス(灯台)」と名付けた。
薬となる化合物は、体内のたんぱく質に結合することで機能を抑える。だが病気に関係するたんぱく質を特定できたとしても、薬として効果的に作用する化合物を見付けるのには難しさがある。
たんぱく質は、ひも状にアミノ酸がつながった物質としての1次構造は既知のものとされる。一方、折り畳まれて立体となった3次構造には未知の分野も多い。この3次構造を踏まえた上での化合物との結合の有無は、薬を探索する上でポイントとなる。
薬の開発現場では実験して薬の候補を見つけだす場合が多い。コンピューターを用いて、立体の3次構造から結合を予測するドッキング・シミュレーションと呼ばれる方法もある。ただ膨大な種類の化合物の中で、限られた物質しか調べられないこと、時間がかかることが課題となる。
ライトハウスの背景には、治療薬候補の化合物とたんぱく質を数値化した際に関係性が存在するとの発想がある。その「隠れたルールを探すのはAIの強み」(中山主幹教授)と、化合物の絞り込みに生かした。AIの学習データには、アミノ酸配列と化合物について、物質の関連性と結合力に関する2種類のデータベースを使う。
研究では、がんの悪性化に関わる酵素に対し、阻害剤として有望な化合物を予測。新型コロナウイルス治療薬の候補として既存の緑内障治療薬のエトキシゾラミドも見いだした。今後は中山主幹教授が最高技術責任者(CTO)を努めるベンチャー、Qイノベーション(福岡市博多区)が実用化に大きな役割を果たす。(西部・関広樹)